慢性脳卒中への歩行リハは高強度が有効

 

概要

 米Cincinnati大学のPierce Boyne氏らは、慢性脳卒中患者の歩行リハビリに最適な運動強度と期間を検討するために、12週間にわたって高強度インターバルトレーニング(HIIT)と中強度エアロビックトレーニング(MAT)のランダム化比較試験を行い、HIIT群には速やかで臨床的に意義のある改善が認められ、改善度は12週後の時点が最大だったと報告した。結果は2023年2月23日のJAMA Neurology誌電子版に掲載された。

 

 

従来の研究

 脳卒中後の歩行リハビリについては、トレーニングの強度と継続期間が重要なパラメータだが、最適な強度と期間は明らかではなかった。慢性脳卒中患者に対する中強度(予備心拍数の40~60%の範囲)の有酸素運動が歩行能力に及ぼす効果を、低強度の歩行訓練または歩行訓練を含まない運動を行った場合と比較する研究は数多く行われているが、高強度運動も含めた研究はほとんどなかった

 

 

 そこで著者らは、慢性脳卒中患者の歩行能力の速やかな改善を最大化するために必要な、最適な運動強度(中強度か高強度か)と最短の持続期間(4週、8週、12週)を検討するための臨床試験を計画した。

 

 

対象

 対象としては、年齢が40~80歳で、脳卒中後に生存しており、発症から6カ月以上5年未満で、歩行速度が1.0メートル/秒以下であり、地面を10メートル歩行するために常時介助は不要だが歩行補助具は必要で、トレッドミルを0.13メートル/秒以上の速度で3分以上歩行可能で、心血管系は安定しており、コミュニケーション能力が維持されている、といった条件を満たした患者を登録した。不整脈や心筋虚血のある患者、ペースメーカーや除細動器の使用者、下肢の拘縮が進んだ患者、うつ病患者などは除外した。

 

 条件を満たした患者は、1対1の割合で、HIIT群またはMAT群にランダムに割り付けた。層別化はベースラインの歩行能力と参加施設が偏らないようにした。トレーニングは週に3回、45分間のプログラムを12週間にわたって実施した。

 

 どちらのグループも予備心拍数(最大心拍数と安静時心拍数の差)の30~40%運動強度で3分間のウオーミングアップを行った後に、割り付けられたトレーニングを実施した。トレーニング後はウオーミングアップと同じ強度で2分間のクールダウンを実施後に終了した。

 

 

方法

 HIITでは、安全な範囲の最大速度で30秒間歩行して、30~60秒間休憩することを繰り返し、有酸素運動強度の平均が予備心拍数の60%を超えることを目的とした。MATは、予備心拍数の40%を当初の目標として持続歩行し、忍容性が見られれば最大60%まで強度を高めた。いずれの訓練も、地面の上とトレッドミルの両方で行った。

 

 主要評価項目は、6分間歩行試験で歩いた距離に設定した。割り付けを知らない評価者が4週時点、8週時点、12週時点で評価した。副次評価項目は、最高歩行スピード、10m歩行試験、自己申告による疲労度、トレッドミルで測定した酸素消費率などとした。

 

 2019年1月から2022年4月に、74人の患者をスクリーニングして、条件を満たした55人が試験に参加した。平均年齢は63歳(標準偏差10歳)、19人が女性、36人が男性だった。27人をHIITに、28人をMATに割り付けた。脳卒中からの経過時間の平均は2.5年(1.3年)で、ベースラインの6分間歩行距離は239(132)mであり、自己申告された歩行速度は0.63(0.31)m/秒だった。

 

 参加者は計画された計1980回の訓練のうちの1675回(84.6%)に参加(HIIT群は82.3%、MAT群は86.8%)し、計画されていた220回の検査のうちの197回(89.5%)を受けていた(HIIT群は88.0%、MAT群は91.1%)。割り付けられた介入に関係する重篤な有害事象は報告されず、あらゆる有害事象の発生率に差はなかった。

 

 4週後の6分間歩行距離は、HIIT群が27m(95%信頼区間6-48m)、MAT群は12m(-9から33m)で、平均差は15m(-13から42m)となり差は有意ではなかった。しかし8週時点では、HIIT群の歩行距離は58m(39-76m)になり、MAT群では29m(9-48m)だったため、平均差は29m(5-54m)と有意になった。12週時点ではそれぞれ、71m(49-94m)と27m(3-50m)で、平均差は44m(14-74m)に拡大した。

 

 副次的評価項目の幾つか(10m歩行速度など)についても、HIIT群に有意な改善が見られた。

 

 これらの結果から著者らは、慢性脳卒中患者の歩行リハビリでは、HIITトレーニングが有効だという仮説の裏付けが得られ、歩行能力の改善は臨床的に意義のあるレベルだったと結論している。

 

 

4週間の訓練でも好ましい影響は見られたが、最大の効果は少なくとも12週間継続した時点で得られていた。この研究はNational Institute of Child Health and Human Developmentの支援を受けている。

 

 

 原題は「Optimal Intensity and Duration of Walking Rehabilitation in Patients With Chronic Stroke  A Randomized Clinical Trial」、概要はJAMA Neurology誌のウェブサイトで閲覧できる。

 

 

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