睡眠時間は長すぎても短すぎても脳の老化が進む

 

2021年の統計を見ると日本における「働き盛り」(45歳から54歳)の平均睡眠時間は約7時間でした [令和3年社会生活基本調査P10、表3−3] 。

 

睡眠不足が健康に悪いのは説明するまでもありません。でも長すぎるのもやはり問題なようです。

 

 

今回は「睡眠時間は長すぎても短すぎても脳の老化が進む」という論文をご紹介します [文末文献1]。

 

報告したのは、米国の名門イエール大学医学部で神経疾患を研究しているサンティアゴ・クロッキアッティ=トゥオッツォ氏たち。

 

昨年12月29日に「米国心臓協会(AHA)雑誌」という国際学術誌に掲載されました。AHAは世界で最も信頼されている心臓血管疾患の学会です。

 

 

MRI」という検査で脳の「老化」指標をチェック

今回同氏らが調べたのは、「睡眠時間」と大脳白質病変」と呼ばれる画像所見との関連です。

簡単に説明させてください。

 

 

大脳白質病変」というのは脳に対するMRI検査画面で、「白くぬけて描出」される部分を指します(朝倉書店「内科学」第12版デジタル付録 [頭を上から見たMRI画像])。

 

 

ではこの「白く抜けて描出」された部分では何が起きているかというと、その部分の「血のめぐり」が落ちているのです(医学的にこういう状態を「虚血」 [きょけつ] と呼びます)。

 

 

なせ「血のめぐり」が落ちるかといえば、一番の原因はその領域に血液を運んでいる細い血管(細動脈)の流れが悪くなるからです。血管もゴムホースと同じで、いくら健康な人でも長年使い込むと(=歳をとると)やはり硬くなり、血液の流れが悪くなるのですね。

 

 

なので「大脳白質病変」の数や大きさは、極端な場合を別にすれば「加齢」の目安と考えられています(年齢に比べ多すぎたり大きすぎたりすれば、脳卒中認知症などのリスクが上がった病的な状態ですが) [「脳卒中」誌論文] 。

 

大脳白質病変」の数や大きさが老化の指標になり得るのはご理解いただけましたか?では進みましょう。

 

結果に信頼性を持たせられるだけの人数と年数を備えた観察

クロッキアッティ=トゥオッツォ氏たちが今回解析したのは、約4万人の英国住民です。すでに脳に疾患がある人(脳卒中既往や認知症)は除外されています。なので基本的に健康的な脳を持った人たちと考えて良いでしょう。

 

この4万人を9年弱、観察しました。

 

このような観察研究は観察対象の数が多く、観察期間が長いほど、一般的に信頼性は高くなります(例えば3人くらいを1週間ほど観察して何か傾向が見られても、あまり信用する気には慣れませんよね?)。

そういう意味で説得力のある研究なのです。

 

 

1日の睡眠時間が「7〜9」時間より長くても短くても脳の老化は進んでいた

そして観察開始時に聞き取った1日の睡眠時間(含・昼寝)で「短」(7時間未満)「適」(7から9時間)「長」(9時間以上)の3群に分け、9年間で「大脳白質病変」がどのように変化したか比較したのです。

 

その結果、睡眠時間「適」の人たちに比べ「短」の人たちでは、「大脳白質病変」の「数」が11%増え、また「容積」も多くなっていました。つまり脳の老化が進んでいたのです。

 

睡眠時間「長」の人たちでも似た結果でした。「大脳白質病変」の「数」こそ増えていませんでしたが、「容積」は増えていたのです。

 

この結果は、「睡眠時間」以外で「大脳白質病変」に関係し得る因子の影響を統計学的に除去した結果です。そのためクロッキアッティ=トゥオッツォ氏たちは、「睡眠時間」そのものが「脳の老化」を左右していると考えています

 

まとめ

冒頭にも書きましたが「大脳白質病変」の数や大きさが増えると、脳卒中認知症の危険性が高まると考えられています。

そのためクロッキアッティ=トゥオッツォ氏たちはそれら疾患の予防という観点からも、適切な睡眠時間の確保が大切だと考えているようです。