認知症の発症リスクのうち、「自分次第で改善できる9つのリスク要因」

 

2017年に英国の医学雑誌「ランセット」が数々の研究結果を解析し、認知症の発症リスクを高めるさまざまな要因のうち、「自分次第で改善できる9つのリスク要因」を発表している。


 そのリスク要因は年代によって分かれていて、小児期の「①低学歴(11~12歳に教育が終了)」、中年期(45~65歳)の「②高血圧」「③肥満」「④難聴」、高年期(65歳以上)の「⑤喫煙」「⑥抑うつ」「⑦運動不足」「⑧社会的孤立」「⑨糖尿病」の9つだ。

 

「この解析研究では、リスク要因を持つ人が、持たない人に比べて、どれだけ認知症になりやすいかの『相対リスク』と、各リスク要因を排除できた場合に、全体の認知症患者がどの程度減るのかの『人口寄与割合』を推計しています。このリスク要因をすべて避けることができれば、認知症患者を最大で35%減らせる可能性があります」


 現在の日本では15歳までが義務教育なので、多くの人は「低学歴」は排除できているはずだ。しかし、脳の神経細胞も体の筋肉と同じで使っていないと衰えてしまう性質がある。年を取っても頭を使う「知的活動」を続けているといい。興味のあることを勉強するにしても、単に何かを記憶するだけではなく、物事を深く考える頭の使い方が大切になるという。日記を書くことも勧められるが、その際にはパソコンやスマホを使って書くのではなく、日記帳にペンを使って書くことがポイントになる。

 

 

 中年期では生活習慣病に注意。特に「高血圧」の相対リスクは1・6倍だが、研究によっては3倍に高まるとされている。


「血圧が高ければ食事の塩分を減らしたり、運動で血圧を下げたりする必要がありますが、難しい場合は薬でコントロールすれば認知症のリスクは抑えられます。降圧剤にはいくつか種類がありますが、中でも『ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)』が最も認知症のリスクを下げるという調査結果が出ています。薬が必要なら、ARBを含めた薬の組み合わせで処方してもらうといいでしょう」

「糖尿病」は認知症のリスクを1・5~2倍高める。特にヘモグロビンA1c値が7%以上の人は、それ以下の人に比べて認知症の発症頻度が約5倍高いという研究結果がある。また、低血糖も要注意で発作を3~4回繰り返すと、認知症のリスクが一気に高まるというデータがあるという。

 

 認知症のリスクが1・9倍と、意外と高いのが「難聴」。脳に入ってくる情報(音)が少ないと、頭を使って考えることが減り、神経細胞でネットワークがつくられる活動が衰えるからだ。実は30代から聴力の低下は始まっていて、高い音からだんだん聞き取りにくくなってくる。聞こえが悪くなったら、ためらわず補聴器を使うことが認知症の予防になる。

■カレーとシークワーサーが効く

 食品による認知症予防についても、国内外でさまざまな論文が発表されている。中でも注目されているのが「カレー」だ。

「カレーが黄色いのは、香辛料のターメリック(ウコン)の色です。そのターメリックに含まれている『クルクミン』というポリフェノールの一種には、抗酸化作用、抗炎症作用があり、これが認知症予防に効くのではないかと考えられているのです。その効果は、細胞レベルでの実験、動物実験疫学調査の3つの面から明らかにされています」

 

 シンガポール人を対象にした研究では、カレーをめったに食べない人(半年に1回未満)に比べて、1カ月に1回以上食べる人は認知症の発症リスクが半分程度に減るという報告が出ている

 また、柑橘類に含まれる「ノビレチン」というポリフェノールの一種も、認知症の予防や改善の効果が期待できることが、さまざまな論文で報告されている。中でも沖縄産の「シークワーサー」は、同じ柑橘系の温州ミカンより10~20倍のノビレチンが含まれている。市販のシークワーサージュースを1日1本飲むといいという。

「そうはいっても、カレーとシークワーサーだけで認知症が防げるわけではありません。食事は多様性とバランスが大切です。10年にわたる追跡調査では、さまざまな食品を取っている人はそうでない人と比べ、認知症の発症リスクが4割低いという結果が出ています

 主食の米の量は減らして、おかずの食材の種類を多彩にした食事の取り方がいいという。