高血圧を改善すればアルツハイマー病発症が減る

 

高血圧を改善すればアルツハイマー病発症が減る可能性

認知症予防に有効だ」と「医学的エビデンスに裏打ちされた」(専門家の個人的感想ではない)方法があるのはご存知ですか?その一つが「高血圧を放置しない」です。393本の臨床研究を解析した結果、明らかになっています 

 

 

高血圧を降圧薬で治療するとアルツハイマー病が減るというデータは、すでに2002年の時点で発表されていました。 Syst-Eur(シスター)という臨床試験です。降圧薬を飲んだ群では偽薬を飲んだ群に比べ、アルツハイマー病となるリスクがおよそ0.4倍にまで下がっていました [文献4]。この試験はランダム化比較試験ですから比較的信頼性は高いと考えられます(アルツハイマー病への影響は「おまけ」解析なので、信頼性はその分低下)。

ランダム化比較試験:比較するグループをくじ引きで分ける試験。どちらかのグループが有利になるような人為的操作を排除できるため信頼性が高い。

 

なお認知症全体で比べても同様に、降圧薬を飲んだ群ではリスクが0.55倍に減っていました。よく週刊誌などで読む「降圧薬を飲むとボケる」は机上の空論、あるいは「風が吹けば桶屋が儲かる」のたぐいの論法だということでしょう

 

(この点については『こっちが本当。「高血圧を下げると認知症は減り、ボケも抑制」』という論文紹介記事で触れています。こちらもお読みください。また「高血圧は下げなくて良い」が嘘だというエビデンス『意外な運動に血圧を下げる大きな効果。それは「壁を使った空気イス」』という記事で紹介しています)

 

万国著作権条約に則り引用
万国著作権条約に則り引用

 

さらに「降圧薬を飲むと偽薬に比べアルツハイマー病の進展と認知機能低下が抑制できる」という論文もあります。こちらもランダム化比較試験のデータを元にした解析です [文献5]。アルツハイマー病を発症したあとでさえ、降圧治療で進展を遅らせられるかもしれないのです。

 

 

高血圧で血管が痛むとアルツハイマー病の原因物質を脳から除去できなくなる?

ではなぜ、高血圧を是正するとアルツハイマー病が減る、あるいは進行を遅らせることができるのでしょう?正確なところは分かっていません。しかし高血圧が続き血管が痛めつけられると(脈が打つたびに血管の内側からハンマーで殴っているような状態が高血圧)アルツハイマー病の原因と言われている以上タンパクを血中に除去する機能が低下して、アルツハイマー病が発症・進展する可能性が指摘されています [文献6]。

 

 

 

ではどうすれば「降圧薬」が「ボケ/認知症」に与える影響を調べられるのでしょうか?

 

一番確実なのは、高血圧の人を集めてきて半分に分け、片方には降圧薬を、もう半分には偽薬(プラセボ:見た目は降圧薬だが血圧を下げる作用はない)を飲んでもらい、その後、認知機能がどのように変化するかを比較する方法です。さらに分ける時には、どちらかにボケにくい人が偏るなどの人為的作為を避ける目的で、「クジ引き」を使います(ランダム化)。

 

このような研究は「ランダム化比較試験」と呼ばれ、「因果関係」の有無を調べられるおそらく唯一の方法だと考えられています。

 

今回ご紹介するのは、そのような「対照ランダム化比較試験」5つに参加した、高血圧患者2万8千人を解析した結果です(米国国立医学図書館ウェブサイト [英語] )。5つの試験はどれも、参加者を降圧薬を飲むグループ(降圧薬群)と偽薬を飲むグループ(偽薬群)にランダム化して比較しています。

 

降圧薬で血圧は10/4mmHg下がり、認知症リスクも15%低下

 

対象になった高血圧患者は多様で、糖尿病を合併していたり、脳卒中を経験していたり、80歳超だったりとバラエティに富んでいました。住んでいた場所も世界20カ国に及んでいます。

そして試験開始から1年後、血圧は「降圧薬」群で「偽薬」群に比べ上が10mmHg弱、下が4弱mmHg下がっていました。「降圧は脳の血流を減らすからボケが進む」理論に従えば、「降圧薬」群で認知症が増えているはずです。

しかし医学的現実は逆でした。およそ3.5〜4.5年間に及ぶ認知症」発症のリスクは、「降圧薬」群で相対的に15%減っていたのです(0.85倍)。「認知機能の低下速度」も「降圧薬」群の方が遅くなっていました。つまり「降圧薬治療はボケを抑制」したのです

 

血圧を下げるとボケが抑制される理由は?

降圧薬治療がボケを抑制する仕組みにしても、実はいくつかの説が提唱されています。

 

例えば、「血圧が高いと気づかないうちに脳内で生ずる微小な出血が、血圧を下げると減る」、あるいは「高すぎる血圧で生成される微小血栓による血管の詰まりが、降圧治療の結果減る」(狭い血管では血圧が高いと血流が渋滞して固まりやすくなる=脳に血液が届きにくくなる)などと説明する論文があります。

 

さらに「高い血圧が血管壁を痛め、認知機能を低下させるタンパク除去が低下する」という発見から、「血圧を下げるとそれらの除去が促進され認知機能低下が抑制される」可能性もあるようです。

 

まとめ

いずれにせよ私たちが覚えておくべきメッセージは、「高血圧を薬で下げてもボケは進まず、逆にボケにくくなる」という医学的事実です。ちなみに医療機関で測定した上の血圧が「140mmHg以上」になると「120mmHg未満」に比べ、「血管が原因となる死亡」のリスクは64歳未満ならば約3倍以上に跳ね上がります(日本人5万人弱を観察した結果 [日本高血圧学会ガイドライン5頁] )。