脊柱管狭窄症

 

 

脊柱管狭窄症は、医学的には「腰部脊柱管狭窄症」という名称が正式です。

神経の走る空間が狭くなる病状です。

 

 

脊柱管とは、イメージしやすいように簡単に言うと、背骨の中にあるトンネル(脊髄神経)のことで、そこには脳から続いている脊髄神経が通っています。加齢や日常的な動作の癖によって変形した周囲の組織(椎間板や黄色靭帯的な動作の癖によって変形した周囲の組織(椎間板や黄色靱帯、椎骨 [=背骨]、 関節から突き出た骨)などによって、脊柱管が、ひいてはトンネル内部を通る 神経が圧迫されます。神経が圧迫されると、血流が低下して痛みや痺れといった症状が表れることになります。

 

 

 

どのような症状が出るのか?

神経の圧迫により、腰から足にかけての痛みや痺れといった症状が表れます かんけつせいはこう が、中でも特徴的なものが「間欠性跛行」です。

距離は人によって、症状によって異なるため一概に言うことはできませんが、一般に100~1000メートルを続けて歩くことができない場合は間欠性跛行とみなされ、程度がひどくなると50メートルも続けて歩くことができなくな ります。

 

他に、一般的に挙げられる症状には次のものがあります。

●立っているときの足・お尻・太ももの裏への痛み・痺れ

●後ろに腰を反るとつらい、痛い

●前かがみになったり、腰をかけると楽になる

●筋力の低下

●便秘、頻尿、尿もれ、残尿感などの排尿・排便障害

いずれも安静時は症状として表れないことが多いです。最後の排尿・排便障害まで至っていると、神経が強く圧迫されている可能性があ

 

「腰から足にかけて痺れ・痛みがある」場合でも、実はその原因が脊柱管狭窄症にあるとは限らないのです。真の原因が他にある可能性は十分に高いといえます。

 

その最も大きな理由は、脊柱管が狭いことが症状に全く影響していない人でも、同様の検査結果が出ることは非常に多いからです。

 

 

脊柱管狭窄の有無と、症状の関係性

和歌山県立医科大学が2013年に「一般地域住民における腰部脊柱管狭窄 症の画像と臨床症状の関連性」の調査研究を行い、次のように報告しました。 「50歳以上(平均66・9歳)のヒト938例を無作為にMRI検査したところ、 77.9%の人に中等度以上の脊柱管狭窄があった。そのうち、症状を有していたのは22.9%だった」(*1)

これは、画像診断の現実を示す大変興味深い報告です。中等度以上の脊柱管 狭窄が約8割もの人に見つかったのに対し、症状を有していたのはわずか1割強と聞いて、驚いた人は多いのではないでしょうか。

 

 

中等度以上で実際に症状を有する人

つまり脊柱管狭窄症=現在の症状とは言えないのです。

もちろん脊柱管狭窄があって、症状 がそれによって出ている人もいると思 います。しかし、その比率はそれほど 多くないということが今回の報告からもわかるのではないでしょうか。

 

 

画像診断で 中等度以上の 脊柱管狭窄の人

和歌山県立医科大学が発表した論文の他にも、画像診断と実際の症状には相関関係がほとんどないとする論文が複数あります(*2)。

これらの報告が示すように、症状の有無にかかわらず、50歳を超えると多く の人に脊柱管の狭窄があるわけです。中等度以上の脊柱管狭窄がある人の割合 症状を有する人の割合を比べてみても、症状と関連があるかどうかは相当曖味だと思いませんか。

つまり、「脊柱管が狭窄しているか」を知るには、レントゲンやMRIといっ た画像診断が有効的ですが、「脊柱管狭窄が痛みに関係するか」を知るには、 それだけでは不十分だということですね。

しかし、診断名をつけないと保険が適用されないし注射や薬も出せないので、 画像診断だけで診断名をつけることもあるというのが現状です。

 

 

腰痛と下肢痛の関係性とは

脊柱管狭窄症と診断された方の多くは、腰痛を持っています。

前述の通り、脊柱管狭窄症は脊柱管が狭くなることで背骨の中の神経を圧迫し、下肢の痛みや痺れを出す病気です。しかし、腰痛に関しては、はっきりわかっていないのです。

 

「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 (改訂第2版)」の6ページ目にも次のような記述があります。

 

腰部脊柱管狭窄症

診断基準
下記の4項目をすべて満たす場合に腰部脊柱管狭窄症と診断する

  1. 殿部から下肢の疼痛やしびれを有する
  2. 殿部から下肢の症状は、立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽減する
  3. 腰痛の有無は問わない
  4. 臨床所見を説明できるMRIなどの画像で変性狭窄所見が存在する

 

わかりやすく言い換えると、腰部脊柱管狭窄症の診断には、「お尻から足にかけて痛みや痺れがある」「②その痛みや痺れは立ったり歩いたりすると表れたりひどくなるが、前かがみになったり座った姿勢では良くなる」「③腰痛はあってもなくてもいい」「④画像診断で見たところ、脊柱管が狭くなっている」という4点が基準になるということですね。

 

 


お尻から足にかけての痛みや痺れといった症状に対して、③の「腰痛はあってもなくてもいい」という点からも、脊柱管狭窄症における腰痛はそれほど重視されていない症状だとわかります。

 

これらの情報を踏まえ、 腰痛は脊柱管が狭いことではなく、他の原因で生じていると考えられるということです。 脊柱管狭窄症は高齢者に生じる病気ですが、高齢者はそもそも腰痛を持っている人が多いですよね。だから、脊柱管狭窄の有無にかかわらず、腰痛が生じている可能性があるわけです。

 

つまり、「①高齢者の大半は脊柱管が狭い」「② 高齢者の多くは腰痛を有している」、この2つが重なることが多いので勘違いされがちですが、実は関連がない可能性が高いことがわかると、腰痛に対する改善方法も見えてくるわけで す。

 

重ねて言いますが、脊柱管狭窄症特有の症状は腰痛ではなく、あくまでも下肢の痛みと痺れ、そしてそれに伴う間欠性跛行です。

 

 

下肢の痛みと痺れの本当の原因は?

それでは、あなたのつらい下肢の痛みと痺れを引き起こしている原因は何なのでしょうか?ここでは大きく2つに絞ります。

 

その2つとは、「末梢神経」「筋膜」です。

 

末梢神経

[末梢神経の滑走障害

末梢神経は筋や骨、脂肪などの間を通り、身体の隅々まで至ります。注目する のは、坐骨神経、上殿神経、後だいたいひしんけい大腿神経といった神経です。 

腰から下肢への経路の途中で 神経が圧迫されたり、癒着した りすると、痛みや痺れを引き起 こします。正座をしたときに脚が痺れる現象がわかりやすい例 ですね。これは正座により、 膝の裏の神経が圧迫される結果生 じるものです。 中高年の方では 本書で紹介している坐骨神経、 上殿神経、後大腿皮神経はよく障害されます。

 

 

 

筋膜(皮神経)

椅子に座るのがつらい場合、筋膜が痛みの原因となっている可能性があります。立ちっぱなし・座りっぱな など同じ動きを繰り返していると筋膜が硬くなり、スムーズに滑らなくなります。

筋膜とは厳密には「皮神経」のことを指します。お尻や下肢の表層に広がっている細か神経のことで、これが周囲の組織に押し付けられると滑走障害を生み、痛みなどの症状となって表れます。

 

 

 

 

 

末梢神経のセルフケア

末梢神経とは、脳と脊髄からなる神経の司令部「中枢神経」と体の末端をつな ぐ神経です。末梢神経のうち下肢の痛み・痺れに関係があるのが、主に「後大腿 皮神経」「上殿神経」「坐骨神経」です

 

後大腿皮神経は梨状筋の下から出て、お尻の下(下殿部)と大腿後面を通り、 この部位の感覚と関わっています。

上殿神経は、お尻の筋肉である中殿筋、小殿筋と深く関わっている筋肉です。 坐骨神経は、腰椎の下部から梨状筋の下を通り抜けてつま先まで通っている、人 体最大の末梢神経です。いずれも付近の筋肉が硬くなり柔軟性を失うと、神経が 圧迫されて痛みや痺れといった症状を引き起こしたり、神経が周囲とくっついて かっそう 滑りが悪くなったりする(滑走障害)ことがあります。

 

神経そのものへのアプローチとあわせて、神経に大きく関わる筋肉 をケアすることで症状を和らげます。

 

 

 

筋膜のセルフケア

筋膜とは、筋肉をボディスーツのように覆っている膜のことです。コラーゲンなどの線維性の組織と水でできており、層状になっています。

その筋膜には皮神経という細かい神経が張りめぐらされており、お尻や下肢の表層に広がっています。なお、皮神経は直径2~3ミリメートルと細いので、 レントゲンやMRIの画像には映りません。

 

この神経組織には多少の柔軟性はありますが、ゴムのようには伸びないので、筋膜の滑りが悪くなると、神経組織が過度に伸ばされるところが出てきます。 それが痛みや痺れの原因になると考えられます。長い時間、同じ姿勢を続けていると、筋膜によって皮神経が締めつけられ、痛みや痺れが出ることがあるの です。

 

筋膜は表層にある組織ですので、自分の手で揉みほぐしたり、摩擦を行うと効果的