股関節屈曲の制限

 

臨床で良く遭遇する股関節屈曲制限因子


臨床で、大殿筋が制限因子になる事は、ほとんどありません。

 

多いのは次の3つ

①大腿方形筋

②大内転筋

③中殿筋

 

 

①大腿方形筋

大腿方形筋は深層外旋六筋の一つであり、一見屈曲制限と関係なさそうですが、下の図のように股関節を屈曲・外転すると伸長されます。

また、股関節屈曲、屈曲・外転、屈曲・外転・外旋で大腿方形筋が伸長される様子を観察した研究もあります。

一方、屈曲に伴い梨状筋及び大腿方形筋が伸張され、外転に伴い梨状筋、上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが、大腿方形筋、外閉鎖筋は伸張された.

複合的な運動では、屈曲位からの外転では梨状筋や上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが、大腿方形筋は伸張され、

さらに外旋が加わると大腿方形筋は最大限に伸張され、筋線維が切れる程であった.

吉田 啓晃, 木下 一雄, 平野 和宏, 中山 恭秀,他 「股関節屈曲・外転・外旋肢位の制限因子の検討」 

理学療法学Supplement/Vol.36 Suppl. No.2 太字はスライド作成者が編集 

臨床場面において大腿方形筋にアプローチをしたら屈曲可動域が向上するというケースは非常に多い。屈曲可動域制限がある方は、まず確認してみてください。大腿方形筋の触診は以下の画像を参考に

 

 

②大内転筋

次は大内転筋です。こちらも「内転筋なのになぜ?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、大内転筋は恥骨大腿部と坐骨顆部に分けることができ、坐骨顆部は坐骨結節から起始し内転筋結節に付着する事から、走行がハムストリングスと似ています。更に、坐骨顆部は脛骨神経支配である為、これもハムストリングスと同じです。

このことから、大内転筋をmini hamstring(ミニハムストリング)と紹介する論文もあります。

大内転筋の坐骨顆部は、筋の走行上、股関節屈曲によって伸長されます。また、ハムストリングであれば、膝関節屈曲によって弛緩しますが大内転筋は膝関節は跨がない為、膝関節を屈曲した股関節屈曲でも強く伸張されます。よって大内転筋は股関節屈曲制限因子になるという事です。大内転筋の触診は以下の画像で確認してください。

 

 

③中殿筋

3つ目は中殿筋です。こちらも代表的な作用としては股関節外転になるので、「なぜ屈曲制限に?」と思う方も多いと思います。しかし下の写真の様に股関節を屈曲すると中殿筋が伸長される様子が観察されます。

なぜ中殿筋が屈曲によって伸長されるかというと、上述した様に股関節を屈曲する際には外旋を伴うからです。中殿筋の前部線維は股関節が屈曲位になると股関節内旋作用となり、外旋によって伸長されます。屈曲外旋方向に屈曲していくと中殿筋が伸長されるという訳です。中殿筋による制限は、特に前側方アプローチで人工股関節全置換術を行った患者さんや転子部骨折でγ-nailを使用した固定術を行った患者さんに多いです。中殿筋前方線維の触診は下記の画像で確認してみてください。

 

 

 

 

もしも、どの組織の緊張も増加しない場合は、関節包由来の制限と考えて、とにかく時間をかけてストレッチしてみてください。