心臓負担の増加につながる塩分過多

 

心臓血管の領域で40年近く診療に携わってきた立場からすると、塩分(ナトリウム)の過剰摂取は心臓にとって良くないのは間違いありません。

 ナトリウムは、人の体内で水分量の調整に関わっていて、通常は一定の濃度を維持しています。しかし、塩分過多でナトリウム量が増加すると、水分量を増やして濃度を下げようとするため、結果的に血液の量が増えることになります。すると、血液を全身に送り出している心臓にかかる負担はそれだけ大きくなるのです。

 

 血液の量が増えれば、血管にかかる圧力が強くなるので血圧も上昇します。ですから、心機能が低下している心不全の患者さんや高血圧の人には、塩分制限が有効とされていて、日本でも数多くのエビデンス(科学的根拠)が存在しています。

■減塩は日本人の健康寿命の延長に貢献した

 かつて行われた、大規模な人数を長期追跡するコホート研究で、塩分摂取が多い北海道や東北などの地域では、胃がんの発生、くも膜下出血や高血圧関連疾患を発症する割合が多いことがわかりました。これを受け、厚労省や医学会が積極的に減塩対策を進めた結果、ピロリ菌対策の効果も加わっておよそ40年で胃がんは克服され、降圧薬の適切な服薬も相まって、高血圧に関係した心臓血管疾患も抑制された印象があります。

 また、減塩は心筋梗塞による死亡の抑制にも大きく貢献したと感じます。かつての日本、急性期治療が広く普及する以前は、心筋梗塞で亡くなる人が多いという事実がありました。先ほども触れたように、塩分過多は心機能を悪化させる大きな要因で、とりわけ一度心筋梗塞を起こしたり、心房細動などの慢性的な心臓疾患がある人にとっては深刻な問題です。

 

 そこで、軽い利尿剤やナトリウムチャネル遮断薬といった薬剤を使ったり、生活習慣で減塩を順守させるなどの治療や対策が実施され、日本人の心臓疾患による死亡数は徐々に抑えられていったと考えられます。近年は高齢化が進んだことで慢性心不全による死亡が増え、心臓疾患で亡くなる人が再び増加している状況ですが、心臓に対する減塩の効果は、日本人の健康寿命の延長に間違いなく貢献してきたといえます。

 冒頭でお話しした最近の研究は、まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」で、心臓を守るためには、やりすぎない程度に減塩を意識する生活を実践するといいでしょう。

 専門家の立場としても、個人的には日本高血圧学会が推奨する1日6グラム未満を継続するのは極めて困難と考えます。あまり厳格に考えすぎると挫折してしまうケースが少なくないので、まずは塩分摂取量を急速に増加させないように心がけましょう。たとえば、飲み会で塩分の多いものをたくさん食べた後、小腹がすいたからとラーメンを食べるといった行動を避けるのです。塩分を抑え込みすぎず、なおかつ年齢や抱えている病気の状況を考えて、極端な塩分の取りすぎがよくないということを意識しておけばいいのです。

 

 また、塩分を含む調味料をなるべく避けるのも効果的といえます。たとえば、最近、東大の薬学部が発見した特別な乳酸菌が話題になっています。長野県にある村の古民家で受け継がれていたぬか床から、免疫活性機能が極めて高い新規の乳酸菌を見つけたといいます。その地域では、古くから塩が手に入りにくかったため、それら発酵菌が含まれる麹やもろみなどで食事の味付けをしていたそうです。そして、そうした地域は大腸がんの発生率が低いことから、その乳酸菌が注目されているのです。

 無理なく減塩するためには、普段なにげなく使っている調味料を、塩麹などの発酵食品で代用してみるのもひとつの手かもしれません。