高血圧の現状と治療

 

俗に「上が140mmHg/下が90mmHg」と言われる高血圧が長い間続くと、脳卒中心筋梗塞などになるリスクが高くなるため、このような合併症を防ぐために血圧を適切にコントロールする必要があります。

わが国における高血圧患者数は約4300万人と推定されていますが、このうち血圧が適切にコントロールされている患者数は1200万人、残りの3100万人は高血圧にかかっていることすら知らない、あるいは血圧のコントロールがうまくいっていないとされています(1)

 

血圧が上昇しても特に症状がないことが多く、あえて治療をしない方も多いようですが、放置しておくと動脈硬化が進み、ある日突然、脳卒中心筋梗塞が起こり、健康寿命が損なわれる恐れがあります。

このように高血圧はサイレント・キラーの一つであり、血圧の高い方は、何も症状がないうちから、医師と相談して対策を講じておく必要があるでしょう。

そこで本稿では、1日のうちで変動する血圧の「日内リズム」について取り上げ、患者さんの健康寿命を保つためにどのような工夫が必要か、生体リズムの観点から解説します。

 

血圧の「型」を知るべし

一般に血圧は起床する頃から上昇し、昼間は高いままですが、就寝とともに低下し、夜間は低くなります。血圧日内リズムはパターンによって、以下のように分けることが出来ます(1)。

(1)昼間に比べて夜間の血圧が0~10%低下し、昼夜であまり変化がないnon-dipper(ノンデイッパー)型

(2)昼間に比べて夜間の血圧が10~20%も低下するdipper(デイッパー)型

自分の血圧日内リズムがデイッパー型かノンデイッパー型かを知ることは、降圧療法を行う際に非常に重要です。高血圧を治療する時は、携帯型自動血圧測定器を用いて昼と夜の血圧を比較し、自分の血圧日内リズムの特徴を把握して下さい。

これまで多くの臨床研究が行われた結果、ノンデイッパー型よりデイッパー型の方が、心筋梗塞の発症は少ないことが分かりました。したがって、デイッパー型で認められる夜間の血圧低下は体にとって適切であり、動脈硬化の進行がより遅くなっているものと考えられています。

夜間の血圧低下が十分でないノンデイッパー型の患者さんでは、血圧日内リズムがデイッパー型に変わるように、降圧薬の投与時刻を工夫する必要があります。これが、「時間治療」の目指すポイントです。

では実際にどのような治療を行えばいいのか。以下では時間医学の知見を取り入れながら、高血圧の治療を解説します。

 

降圧剤に頼らなくても

高血圧の非薬物療法として、塩分やアルコールの摂取制限、あるいは運動や肥満是正などが知られています。ここからはサプリメントの血圧に及ぼす影響、および睡眠時間および環境汚染物質が血圧を上昇させることや、それに対してどのように対応すれば良いかを述べたいと思います。

1)カリウムは夜間の血圧を下げる

セルフメディケーションの普及とともに、血圧を下げるためにサプリメントを服用している高血圧患者さんが増えてきました。どのような成分が含まれたサプリメントを飲むと血圧が下がるのか、以下にまとめました。

(1)ビタミンC、カリウムおよびマグネシウムは昼間の血圧を下げる。

(2)さらに、カリウムは夜間の血圧も下げる(2)。

したがって、血圧日内リズムがノンデイッパー型の患者さんは、カリウムが含まれるサプリメントを摂取すると、夜間の血圧が下がることが期待されます。ただし、腎機能が低下している患者さんは血中カリウム濃度が上昇する危険性があるため、カリウムが含まれるサプリメントをお勧めすることは出来ません。

2)睡眠時間は短くても長くても血圧が上昇する

照明技術の発達に伴って夜更かしする人や夜間に働く人が多くなり、睡眠時間が不規則になって、体に様々な悪影響が現れる恐れがあります(3)。これまで寝不足が続くと血圧が上昇することは知られていましたが、最近、寝すぎでも血圧は上昇することが報告されました(4)。

35万人以上の成人を対象にして睡眠時間と血圧との関連性を調査したところ、睡眠時間が7時間に比べて6時間や8時間では血圧はやや上昇し、5時間や9時間では血圧は明らかに上昇することが報告されました。

このように、睡眠時間を横軸、血圧を縦軸にしたグラフをイメージすると、U字状になることが示されました。したがって高血圧を指摘されている方や降圧薬を服用中の方は、睡眠時間は7時間程度にされることをお勧めします。

3)黄砂は血圧を上昇させる

中国大陸から飛来する黄砂に暴露すると、その日のうちに血圧が上がることが、30万人以上の人を対象にした疫学研究で明らかにされました(5)。これは、黄砂に含まれる2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質PM2.5)が原因の一つであると考えられます(6)。

Photo by iStock© 現代ビジネス

黄砂に暴露すると、数日以内に心血管系疾患が起きる危険性が1~3%高くなり、特に、ノンデイッパー型の人では、心血管系に及ぼす影響は大きいことが報告されています(7)、(8)。したがって、心臓に持病を持ったノンデイッパー型高血圧患者さんは、黄砂飛来警報が出された日は外出を控えるか、あるいは外出する時はマスクを着用すると、心血管系疾患が起きる恐れは少なくなるものと思われます。

PM2.5を除去することが出来る室内空気清浄機を平均13.5日間使用すると、血圧が約4mmHg下がることが報告されています(9)。

わが国におけるPM2.5の環境基準は、年平均濃度が15 µg/m3、および24時間平均濃度が35 µg/m3ですが、これ以上に上昇する期間は室内空気清浄機を用いることによって、心血管系疾患の発症が減ることが期待されます。高血圧患者さんは、日々、日本気象協会から発表されるPM2.5分布予測に注意して下さい。

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薬を飲む時間を変えるだけで

1)ノンデイッパー型血圧日内リズムの患者は認知症になりやすい

最近、血圧日内リズムがノンデイッパー型の高血圧患者さんは、認知症になりやすいことが報告されました(10)。これは、夜間の血圧が十分下がらないことにより大脳が萎縮し、さらに脳内に微小出血が生じて脳細胞が壊死しやすくなるためとされています(10)。血圧が高い方にとっては重大なリスクであるものの、降圧薬を用いて血圧を下げると認知症になる危険性は下がることも同時に示されています(11)。

それでは、降圧薬をどのように用いれば、ノンデイッパー型の高血圧患者さんは夜間の血圧を適切にコントロールすることが出来るのでしょうか。

この点を明らかにするために、インドの研究チームはノンデイッパー型高血圧患者さん75名を対象にして、降圧薬を朝投与する群36名と夜投与する群39名に分け、1年間の血圧の動きをフォローアップしました(12)。

その結果、夜投与群では36名中10名(26%)の血圧日内リズムがノンデイッパー型からデイッパー型に変わったのに対して、朝投与群ではデイッパー型に変わった患者さんは一人もいませんでした。

さらに、長期間、血圧のコントロールが十分でないと腎機能が低下しますが、1年間における腎機能の低下の度合いは、朝投与群よりも夜投与群の方が小さいことも報告されています(12)。

以上より、ノンデイッパー型高血圧患者さんに対する時間治療(降圧薬を夕~夜に投与する)は有用だと考えられます。

一方、デイッパー型の高血圧患者さんの場合、1日1回投与する降圧薬を用いた時間治療の有用性はまだ明らかにされていません。デイッパー型高血圧患者さんは、自分の都合に合わせて1日1回服用して下さい。

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2)降圧薬の副作用は投与時刻によって変わる

降圧薬であるレニベースやカプトリルなどのACE(エース)阻害薬は、血圧を上げるホルモン(アンジオテンシンII)を減らして血圧を下げます。

エース阻害薬は降圧作用に優れており、高血圧や心不全の治療に広く用いられていますが、朝に投与すると患者さんの10~20%に空咳が出現しQOLが低下するため、投与が中止されることがあります。しかし、筆者は、エース阻害薬による空咳が出現したときには、投与時刻を夕方に変更することで減弱し、患者さんのQOLは向上することを確認しました(13)。

臨床の現場では、空咳が出るとしばしば他の降圧薬に変えられますが、エース阻害薬が1日1回朝投与されている患者さんで空咳を認めたときは、投与の時間を変更するだけで副作用を軽減できることがあります。空咳が出現したときは、急いで他の降圧薬に切り替える前に、一度、投与時刻を変えてみる価値はあるでしょう。

 

心筋梗塞「魔の時間帯」

高血圧が長く続くと動脈硬化が進み、心筋梗塞が起こりやすくなります。心筋梗塞は早朝に起こりやすいため、「魔の時間帯」とも呼ばれていますが、その原因の一つとして、この時間帯に血小板が凝集する作用が高まり血栓が出来やすくなることがあります。

解熱・鎮痛薬として広く用いられているアスピリンは血小板凝集能を抑制する作用もあり、心筋梗塞の再発予防薬としても用いられています。疾患が起こりやすい時間帯や、症状が悪化しやすい時間帯が分かっていれば、その時間帯に一番効くように治療薬の投与タイミングを工夫するだけで、優れた治療効果が得られると考えられます。

繰り返しになりますが、このような投与法の工夫が「時間治療」の核であり、もちろん心筋梗塞の治療にも時間治療の知見は有用です。

Photo by iStock© 現代ビジネス

心筋梗塞の再発を予防することを目的として、多くの患者さんはアスピリンを1日1回朝食後に飲んでいます。しかし、本当にアスピリンが効いてほしいのは「魔の時間帯」の早朝であり、朝に飲んでも翌日の早朝にはアスピリン血中濃度は低くなっていて、血小板の凝集を抑制する作用は弱くなっている恐れがあります。

一方、アスピリンを1日1回夕食後に飲むと、翌日の早朝時点での効果は朝食後に飲んだときよりも強いことが報告されています(14)。したがって、心筋梗塞の再発を予防するためにアスピリンを用いるときは、1日1回夕食後に飲んだ方が、心筋梗塞の再発する危険性はより低くなるものと考えられます。

同じ一錠だとしても、適切な「タイミング」を知らないまま飲むのは非常にもったいないと言えます。最新の研究知見を活用したうえで、飲むタイミングを変えるだけで、より効果を高められるケースもあるのです。

さらに関連記事『降圧剤とセサミン、ウコンと糖尿病の薬…実はリスクが高いサプリと薬の「ヤバい飲み合わせ」』では、降圧剤と一緒に飲むとリスクが生じるサプリについて解説しています。

 

降圧剤に頼らなくても

高血圧の非薬物療法として、塩分やアルコールの摂取制限、あるいは運動や肥満是正などが知られています。ここからはサプリメントの血圧に及ぼす影響、および睡眠時間および環境汚染物質が血圧を上昇させることや、それに対してどのように対応すれば良いかを述べたいと思います。

1)カリウムは夜間の血圧を下げる

セルフメディケーションの普及とともに、血圧を下げるためにサプリメントを服用している高血圧患者さんが増えてきました。どのような成分が含まれたサプリメントを飲むと血圧が下がるのか、以下にまとめました。

(1)ビタミンC、カリウムおよびマグネシウムは昼間の血圧を下げる。

(2)さらに、カリウムは夜間の血圧も下げる(2)。

したがって、血圧日内リズムがノンデイッパー型の患者さんは、カリウムが含まれるサプリメントを摂取すると、夜間の血圧が下がることが期待されます。ただし、腎機能が低下している患者さんは血中カリウム濃度が上昇する危険性があるため、カリウムが含まれるサプリメントをお勧めすることは出来ません。

2)睡眠時間は短くても長くても血圧が上昇する

照明技術の発達に伴って夜更かしする人や夜間に働く人が多くなり、睡眠時間が不規則になって、体に様々な悪影響が現れる恐れがあります(3)。これまで寝不足が続くと血圧が上昇することは知られていましたが、最近、寝すぎでも血圧は上昇することが報告されました(4)。

35万人以上の成人を対象にして睡眠時間と血圧との関連性を調査したところ、睡眠時間が7時間に比べて6時間や8時間では血圧はやや上昇し、5時間や9時間では血圧は明らかに上昇することが報告されました。

このように、睡眠時間を横軸、血圧を縦軸にしたグラフをイメージすると、U字状になることが示されました。したがって高血圧を指摘されている方や降圧薬を服用中の方は、睡眠時間は7時間程度にされることをお勧めします。

3)黄砂は血圧を上昇させる

中国大陸から飛来する黄砂に暴露すると、その日のうちに血圧が上がることが、30万人以上の人を対象にした疫学研究で明らかにされました(5)。これは、黄砂に含まれる2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質PM2.5)が原因の一つであると考えられます(6)。

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黄砂に暴露すると、数日以内に心血管系疾患が起きる危険性が1~3%高くなり、特に、ノンデイッパー型の人では、心血管系に及ぼす影響は大きいことが報告されています(7)、(8)。したがって、心臓に持病を持ったノンデイッパー型高血圧患者さんは、黄砂飛来警報が出された日は外出を控えるか、あるいは外出する時はマスクを着用すると、心血管系疾患が起きる恐れは少なくなるものと思われます。

PM2.5を除去することが出来る室内空気清浄機を平均13.5日間使用すると、血圧が約4mmHg下がることが報告されています(9)。

わが国におけるPM2.5の環境基準は、年平均濃度が15 µg/m3、および24時間平均濃度が35 µg/m3ですが、これ以上に上昇する期間は室内空気清浄機を用いることによって、心血管系疾患の発症が減ることが期待されます。高血圧患者さんは、日々、日本気象協会から発表されるPM2.5分布予測に注意して下さい。

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薬を飲む時間を変えるだけで

1)ノンデイッパー型血圧日内リズムの患者は認知症になりやすい

最近、血圧日内リズムがノンデイッパー型の高血圧患者さんは、認知症になりやすいことが報告されました(10)。これは、夜間の血圧が十分下がらないことにより大脳が萎縮し、さらに脳内に微小出血が生じて脳細胞が壊死しやすくなるためとされています(10)。血圧が高い方にとっては重大なリスクであるものの、降圧薬を用いて血圧を下げると認知症になる危険性は下がることも同時に示されています(11)。

それでは、降圧薬をどのように用いれば、ノンデイッパー型の高血圧患者さんは夜間の血圧を適切にコントロールすることが出来るのでしょうか。

この点を明らかにするために、インドの研究チームはノンデイッパー型高血圧患者さん75名を対象にして、降圧薬を朝投与する群36名と夜投与する群39名に分け、1年間の血圧の動きをフォローアップしました(12)。

その結果、夜投与群では36名中10名(26%)の血圧日内リズムがノンデイッパー型からデイッパー型に変わったのに対して、朝投与群ではデイッパー型に変わった患者さんは一人もいませんでした。

さらに、長期間、血圧のコントロールが十分でないと腎機能が低下しますが、1年間における腎機能の低下の度合いは、朝投与群よりも夜投与群の方が小さいことも報告されています(12)。

以上より、ノンデイッパー型高血圧患者さんに対する時間治療(降圧薬を夕~夜に投与する)は有用だと考えられます。

一方、デイッパー型の高血圧患者さんの場合、1日1回投与する降圧薬を用いた時間治療の有用性はまだ明らかにされていません。デイッパー型高血圧患者さんは、自分の都合に合わせて1日1回服用して下さい。

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2)降圧薬の副作用は投与時刻によって変わる

降圧薬であるレニベースやカプトリルなどのACE(エース)阻害薬は、血圧を上げるホルモン(アンジオテンシンII)を減らして血圧を下げます。

エース阻害薬は降圧作用に優れており、高血圧や心不全の治療に広く用いられていますが、朝に投与すると患者さんの10~20%に空咳が出現しQOLが低下するため、投与が中止されることがあります。しかし、筆者は、エース阻害薬による空咳が出現したときには、投与時刻を夕方に変更することで減弱し、患者さんのQOLは向上することを確認しました(13)。

臨床の現場では、空咳が出るとしばしば他の降圧薬に変えられますが、エース阻害薬が1日1回朝投与されている患者さんで空咳を認めたときは、投与の時間を変更するだけで副作用を軽減できることがあります。空咳が出現したときは、急いで他の降圧薬に切り替える前に、一度、投与時刻を変えてみる価値はあるでしょう。

心筋梗塞「魔の時間帯」

高血圧が長く続くと動脈硬化が進み、心筋梗塞が起こりやすくなります。心筋梗塞は早朝に起こりやすいため、「魔の時間帯」とも呼ばれていますが、その原因の一つとして、この時間帯に血小板が凝集する作用が高まり血栓が出来やすくなることがあります。

解熱・鎮痛薬として広く用いられているアスピリンは血小板凝集能を抑制する作用もあり、心筋梗塞の再発予防薬としても用いられています。疾患が起こりやすい時間帯や、症状が悪化しやすい時間帯が分かっていれば、その時間帯に一番効くように治療薬の投与タイミングを工夫するだけで、優れた治療効果が得られると考えられます。

繰り返しになりますが、このような投与法の工夫が「時間治療」の核であり、もちろん心筋梗塞の治療にも時間治療の知見は有用です。

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心筋梗塞の再発を予防することを目的として、多くの患者さんはアスピリンを1日1回朝食後に飲んでいます。しかし、本当にアスピリンが効いてほしいのは「魔の時間帯」の早朝であり、朝に飲んでも翌日の早朝にはアスピリン血中濃度は低くなっていて、血小板の凝集を抑制する作用は弱くなっている恐れがあります。

一方、アスピリンを1日1回夕食後に飲むと、翌日の早朝時点での効果は朝食後に飲んだときよりも強いことが報告されています(14)。したがって、心筋梗塞の再発を予防するためにアスピリンを用いるときは、1日1回夕食後に飲んだ方が、心筋梗塞の再発する危険性はより低くなるものと考えられます。

同じ一錠だとしても、適切な「タイミング」を知らないまま飲むのは非常にもったいないと言えます。最新の研究知見を活用したうえで、飲むタイミングを変えるだけで、より効果を高められるケースもあるのです。