年齢と疲労回復の関係

 

「歳をとると疲れがとれにくくなる」はウソ?年齢と疲労回復の関係

 


 年齢を重ねると若い頃より疲れやすくなり、疲労回復までの時間も長くなる。一晩寝ても疲れが

とれない。そのような話はよく聞きますし、実際にそんな風に感じている人も多いでしょう。

 


 筋トレやフィットネスの世界では、加齢とともに疲労からの回復力が弱まるので、40代や50代

以降の中高年は、トレーニング間の休息を若い世代より長くとるべきだとするアドバイスが常識

のようになっています。

 


 ところが、その常識は科学的には根拠が乏しいとした研究(1)が、アメリカの医学雑誌に発表

されました。それによると、筋トレで疲労した筋肉の回復力とそのスピードは、加齢による影響

をほとんど受けず、その差が生じる原因はむしろ個人のトレーニング歴によるというものです。

 もし若い頃より疲れがとれないと感じているのなら、それは加齢ではなく単なる運動不足のせ

いかもしれないということです。

 

 

 

どんな研究内容だったのか


 セントラルフロリダ大学のジェイ・ホフマン教授らが中心になって行われたこの研究では、平

均年齢22歳の若者グループ(9人)と、平均年齢47歳の中年グループ(10人)について比較。被

験者はすべて男性で、「趣味程度の筋トレ経験」がある人たちが選ばれました。

 


 趣味程度の筋トレ経験とは、具体的に言うと「過去6か月間以上に渡って、少なくとも週に

150分以上の筋トレを行っていた人たち」ということです。

 


 実験では、被験者たち全員がマシンを用いて膝を屈伸させるエクササイズ(レッグ・エクス

テンションのことだと思われます)を10回8セット、セット間に1分間の休息を挟んで実施。

被験者たちの筋力は、実験の前後と48時間後に計測されました。

 


 同じタイミングで血液検査も行われ、筋肉のダメージと炎症の変化が記録されたとのこと。

炎症がいかに回復するかは、筋トレで破壊された筋肉繊維が再生するプロセスの進行状況を見

る物差しになるということです。


研究結果「回復力に明確な差異は発生しなかった」

 


 実験の結果は非常にシンプルで、かつ驚くべきものでした。若者グループと中年グループの

間で、回復力に明確な差異は発生しなかったのです。絶対的な筋力そのものは当然ながら若者

グループの方が勝っていたものの、その筋力を元に回復する相対的なスピードは、両グループ

とも同じでした。

 筋肉のストレスと炎症が治まっていく過程も、両グループが同じ軌道で推移し、主観的な筋肉

痛や張りの度合いについても同様です。年齢にかかわらず、普段からハードに筋トレを行ってい

る人ほど回復力が高いという結果も見られました。

 


「年齢はただの数字に過ぎない」は正しいのかもしれない


 前述したように、この研究は非常に限定されたサンプルを対象にしています。19人ではなく

1万人以上で比較する、男性だけではなく女性を含める、40代ではなく60代以上を対象にする。

あるいは筋トレではなく有酸素運動で試す、趣味程度ではなくハードな筋トレをした場合など、

理論的にはいくらでも比較対象を広げることはできるでしょう。

 


 そうした際、回復力と年齢との間には相関関係は出てくるのか。その疑問に答える回答は今

のところ見当たりません。これは、今後の研究課題になるでしょう。

 


 しかし、とりあえず「もう年だから」という常套句を、トレーニングを長い間休む理由、あ

るいは言い訳に使うべきではないということだけは、自分に言い聞かせてもよいのではないで

しょうか。

 


 疲れがとれない(と思い込む)から休息を長く持ち、次にトレーニングするときには筋力が

落ちている。そんなパターンが繰り返されると、筋トレ効果は上がっていきません。成長は足

踏みするか、後退します。

 


 もちろん、十分な筋トレ効果を得るためには適切な休息は不可欠ですし、休息が足りないと

オーバートレーニング症候群に陥る危険もあります。しかしながら、長過ぎる休息は運動不足

にもなりかねません。

 


回復力が弱まったから運動不足になるのか、運動不足だから回復力が弱まるのか。まるで卵と

ニワトリのどちらが先かを問いているようですが、少なくともその2つが原因で、悪循環の無限

ループを繰り返す事態だけは避けたいところです。

 


 それを防ぐためには、年齢をフィルターとするのではなく、自分自身の身体と慎重に対話する

ことが重要ではないでしょうか。

 


参考文献: 1.Comparisons in the Recovery Response From Resistance Exercise Between Young

and Middle-Aged Men