運動は、骨格筋を使って身体を動かしたり支えたりすることで、全身にさまざまな効果をもたらします。最近の研究では、運動が身体に与える影響やそのメカニズムについて、より深く理解されるようになってきました。例えば、ジムで部位別に筋肉を大きくするトレーニングを行うと、その効果は全身に及び、さまざまな健康効果が報告されています。
具体的には、運動によって筋肉が増大し、骨密度が増加することがわかっています。また、血圧の低下や糖尿病の予防・改善、動脈硬化の改善、脳卒中の減少、認知症(アルツハイマー病)の予防、心疾患の予防・改善、肝機能や膵臓機能の改善、免疫機能の亢進、鬱・不安の抑制、がん発症率の低下などが報告されています。これらの効果は、運動によって骨格筋から分泌されるホルモン物質「マイオカイン」によって調節されることが考えられています。
マイオカインは、筋肉が収縮することで分泌され、血液を通じて全身に運ばれるホルモン物質です。マイオカインは、筋肉の代謝に関与するだけでなく、他の臓器に作用してそれらの状態を調節したり、血圧や骨密度の増大を促すメッセージを送る役割も果たしています。これにより、運動が全身に及ぼす効果が説明されると考えられています。
さらに、マウスの実験でも、筋肉を増強することが病気に対する効果をもたらすことが確認されています。がんを発症して筋肉が萎縮したマウスに筋肉増強剤を注射すると、筋萎縮が抑えられ、がんの成長が抑制され、生存日数や生存率が向上することが報告されています。
このように、筋肉を適切に保つことが病気を遠ざけ、健康な生活を送るための重要な要素であると考えられています。実際、人間においても、全身の筋量が多く、筋力が高いほど病気にかかりにくく、長寿につながる傾向があることがさまざまなデータから示されています。
ただし、日本人の場合、長寿と健康寿命の差が大きいという問題があります。日本人は世界トップクラスの長寿を誇っていますが、健康で生きられる期間は実際には限られています。内閣府・高齢社会白書のデータによれば、男性の平均寿命は81.41歳であり、健康寿命は72.68歳という結果が示されています。女性の場合も、平均寿命は87.45歳であり、健康寿命は75.38歳です。つまり、日本人の場合、平均して健康で生活できる期間は約10年程度となっています。
健康寿命を終わらせてしまう要因としては、運動器の障害が最も多く報告されています。膝や股関節の疾患、脊椎・腰椎の脊椎症、大腿骨の骨折、そして筋肉の衰退であるサルコペニアなどが運動器の障害として挙げられます。これらの状態は、筋力や筋量の低下と関連しており、さまざまな病気につながる可能性があります。そのため、予防の観点からも適切な運動と筋肉量の維持が重要です。
特に、筋量の低下は30代から始まり、40~50代の方は日常に運動を取り入れて筋量を維持することが重要です。また、座りっぱなしの時間を減らすことも意識して行うべきです。健康に年を重ねるためには、運動の効果が全身に及ぶことを多くの人に理解してもらい、予防に取り組むことが重要です。