心疾患に対する運動療法ガイドライン

 

 

運動療法の身体的効果

 

運動療法は、心臓リハビリテーションの中心的な役割を担っており,さまざまな身体効果が証明されている

 

主たる効果は運動耐容能の増加であり,労作時呼吸困難や疲労感などの心不全症状や狭心症発作など、日常生活における諸症状を軽減して生活の質(QOL) を改善する

 

また,包括的リハビリテーションの一環としての運動療法は,高血圧・高脂血症・糖尿病など冠危険因子を是正する. そしてこれら の総合的な効果として,冠動脈イベントの発生や心不全 増悪による入院を減らし,生命予後を改善することが報 告されている

 

 

 

1. 運動療法の効果と安全性

 

さまざまな身体効果は,運動療法開始前の身体機能や 重症度,用いる運動の種類,持続時間や頻度によって異なる。運動耐容能の改善を目的とした運動療法では、歩行や自転車走行など大きな筋群を用いる動的な有酸素運動が用いられ,最高酸素摂取量の 40~85%,あるいは最高心拍数の 50~90%の運動強度が用いられてきた

 

この強度の有酸素運動を1日 20~40分間行い,週3回以上の頻度で 12 週間以上継続した場合に最も安定した効果が得られる.このような個人の運動能力および病態法の身体効果に応じた運動処方による運動療法の安全性は確立されて おり,運動中の心事故や他の有害事象の発生を増すことはなく5)-12),

 

また長期の運動による心機能の増悪や心室モデリングを来さないことが明らかにされている

 

 

 

2. 運動耐容能の増加

 

心疾患患者における運動耐容能の低下は,心機能低下に基づく中枢性および末梢性の循環障害に加え,慢性的な循環障害や身体活動性の低下に起因する骨格筋の機能障害や換気機能障害などの総和として出現する.

 

運動耐容能の改善は、心疾患の運動療法において最も確実に得られる効果であり,運動能力の指標として用いられる最高酸素摂取量は15~25%増加する. この結果,日常労作の相対的運動強度が低下し、日常生活における息切れなどの諸症状が改善する。運動耐容能の改善効果は 性・年齢にかかわらず認められ, また運動療法開始前の運動耐容能が低いほど大きいことが知られている

 

 

運動耐容能改善の機序に関しては,最大心拍出量,心室充満圧および心室収縮能の改善などの中枢性効果は認めないという報告が多く,また最大動静脈酸素較差の増大や下肢血流量増加を認めることから,末梢循環や骨格筋機能の改善など末梢性効果が主たる機序と考えられている

 

また心筋虚血が運動制限因子となる虚血性心疾患においては、心筋灌流の改善が運動耐容能增加の重要な機序となる