高齢者の下肢敏捷性と運動機能の関連

高齢者の下肢敏捷性と運動機能の関連

 

目的
本研究の目的は、高齢者における下肢の敏捷性が他の運動機能や移動動作能力に与える影響を明らかにすることです。特に、敏捷性が高齢者の日常生活における移動能力にどのように寄与するかを評価し、健康寿命の延伸や介護予防に向けた知見を提供することを目指しています。

 

対象
研究対象は、栃木県O市で開催された体力測定会に参加した65名の高齢者で構成されています。対象者の性別は男性17名、女性48名で、平均年齢は76.6歳(±5.9歳)、平均身長は151.5cm(±7.3cm)、平均体重は51.7kg(±8.0kg)です。対象者は、特に運動機能の低下が見られる高齢者であり、日常生活における自立を維持するための運動機能の重要性が強調されています。

 

方法
評価項目
ステッピングテスト:  高齢者が椅子に座った状態から、両足を簡易測定ボードの中央に揃え、合図に従って足を交互に前後に動かす動作を行います。このテストでは、一定時間内に何回足を動かせるかを測定し、下肢の敏捷性と動作の切り替え能力を評価します

 

CS-30(Chair Stand Test): 両手を胸の前で組んだ状態で、合図に従い、30秒間に何回立ち上がり、座ることができるかを測定し、下肢筋力を評価します。

 

FRT(Functional Reach Test): 高齢者が前方にどれだけ手を伸ばせるかを測定し、バランス能力を評価します。これにより、転倒リスクの評価も行います。

 

5m MWT(5-meter Walk Test): 5メートルの距離を歩くのにかかる時間を測定し、移動能力を評価します。移動速度は高齢者の機能的な独立性を示す重要な指標です。

 

TUG(Timed Up and Go Test): 椅子から立ち上がり、3メートル先に行って戻り、再び椅子に座るまでの時間を測定し、全体的な移動能力とバランスを評価します。

 

分析手法
相関分析: Pearsonの積率相関係数を用いて、各運動機能評価の相関を分析しました。これにより、敏捷性と移動能力の関連性を定量的に評価します。

重回帰分析: 年齢、性別、ステッピング、CS-30、FRTを調整変数として使用し、5m MWTとTUGに対する影響を評価しました。この分析により、各運動機能が移動能力に与える影響を明確にします。

 

結果
相関分析: ステッピングと移動動作能力との相関が確認され、特にTUG(r=-0.65)、CS-30(r=0.60)、5m MWT(r=-0.43)、FRT(r=0.38)で有意な相関が見られました。これにより、下肢の敏捷性が移動能力に与える影響が示されました

 

重回帰分析: 5m MWTにはCS-30とFRTが有意に影響を与え、TUGにはステッピングが有意に影響を与えることが確認されました。これにより、下肢の筋力やバランス、敏捷性が高齢者の移動能力に重要であることが示唆されました。

 

結論
本研究により、高齢者の移動能力には下肢筋力とバランスが重要であり、特に動作の切り替えには敏捷性が大きな役割を果たすことが確認されました。これらの知見は、高齢者の健康寿命の延伸や介護予防に向けた運動介入プログラムの開発に寄与することが期待されます。今後は、前向きコホート研究や効果的な運動介入プログラムの検討が必要であり、高齢者の転倒や骨折を予防するためのトレーニング方法の開発が望まれます。さらに、地域社会における高齢者の健康維持に向けた取り組みが重要であると考えられます。

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/30/6/30_829/_pdf