心不全でも呼吸不全でも現れる「息苦しい」という訴え。
心不全と呼吸不全のいずれによるものなのか= 臨床でどのようにアセスメントすればよいのか、手順を追って具体的にみていきましょう。
息苦しさ=呼吸困難感は、 呼吸不全や心不全のどちらでも出現する症状
呼吸困難感がある患者さんは 「息苦しい」「息が しにくい」「息が切れる」 などと訴えることが多いでしょう。訴えがない場合、あるいは訴えられない 場合も、安静にしている状態で 「はぁはぁという荒 い呼吸音が聴こえる」 「肩で息をしている」 などが みられたら、呼吸困難の状態であることがわかりま す。いつもより苦しそうな表情・つらい表情などを 見分けて、痛いのか・苦しいのか、どのようにすれ ば楽になるかなどを尋ね、意思疎通を心がけます。
呼吸不全はもちろん心不全の場合にもみられる症状で、酸素が足りないことを示しています。その原因としては、酸素が十分に取り込めていない、ガス交換がうまくいかない、酸素をうまく運べていない などが考えられます。
それらをもたらしているのが、心不全か、呼吸不 全か、あるいはその他の疾患かで、現れ方や随伴症状に違いがあるので、それぞれの特徴を踏まえてア セスメントするようにします。
臨床ではステップを踏んでアセスメントしよう
1既往歴を確認する
まずは、既往歴を確認します。現疾患だけでなく、 これまでどのような疾患を発症したかもみるようにします。
心臓疾患の術後、心筋梗塞や狭心症のほか、 心不全の既往歴がある場合は、直ちに心不全を疑います。
一方、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支 喘息の患者さんであれば、呼吸不全を疑います。
2問診をしながら推察する
発症の時期と経過、発症のきっかけ、症状と程度などを確認しながら、息苦しさの原因を推察します。
[発症の時期と経過]
COPDの急性増悪、喘息の場合は、早朝に呼吸困難を訴えることが多いようです。
夜間に苦しくなるのは心不全で、 咳や喘鳴を伴うこともあります。就寝後1~3時間後が多いといわれています。
寝るときに横になると起こる発作性の 呼吸困難(発作性夜間呼吸困難)では、横になることで肺に血液が留まりやすくなり、気管支がむくむことで咳が出ます。 この場合、患者さんは横になるよりも座っているほうが楽だといいます。
[持続時間と発症のきっかけ]
常に息苦しいのは呼吸不全で、動くと苦しいのは心不全。
発症初期には労作時のみに現れるため、安静が習慣と なっている患者さんでは症状に気づかないことがあります。より軽い動きや安静時でも呼吸困難となる場合は重症です。
[症状とその程度]
吐きづらさや呼気の延長はCOPDによる呼吸不全、呼気と 吸気のどちらが苦しいかわからない場合は心不全の特徴です。
濃性の痰は肺炎や気管支炎、血痰は呼吸不全、 ピンク色の泡沫状の痰は肺水腫による左心不全の特徴です。
3 体位をみる
息苦しさを訴えている場合、どのような体位をと っているかでも、呼吸不全か心不全かをおおよそ判 断することができます。症状が激しくてうまく話せ ない、あるいは、自覚症状があまりないという患者さんを観察するときにも役立ちます。
呼吸系の疾患の場合は側臥位が可能ですが、心不全では側臥位がつらくなるので、その違いで鑑別することができます。
苦しくて横になれない、横になるより起きているほうがよい・・・・>心不全を疑う
前屈のほうが楽だ・・・・・・・ COPDによる呼吸不全が疑われます。
側臥位のほうが楽だ・・・・・・・・・無気肺、胸水貯留による呼吸不全が疑われます。
4 バイタルサイン
血圧は、呼吸苦があるときは上昇します。酸素が不足しているため、いずれもSpO2 は下がり、脈が速くなります。しかし、これらの値のみで両者を鑑別することは難しいでしょう。
ただし、脈拍の上昇は、酸素の運搬を代償する(心拍出量の増加) ための限界は120回程度だと考えら れています。つまり、それ以上だと代償機能の異常、 心疾患や代謝疾患の存在が予測できるようです。
1回拍出量を予測するために、可能であれば脈圧 測定を行います。脈圧が収縮期血圧×0.25以下の場 合には、1回拍出量が低下している(つまり心不全) 可能性があります。
5 聴診
湿性ラ音(断続性ラ音)が聴かれる場合には、心不全が疑われます。
ゼーゼー、ヒューヒューという狭窄音の場 合は喘息や上気道狭窄が考えられます。この場合、 呼気で音がするのが喘息、吸気で音がするのが上気 道狭窄です。
左心不全が重症化し、心臓喘息の状態になると、心不全でも笛音が聴取されます。片側性の呼吸音の減弱は、無気肺、胸水、気胸が考えられます。
6 各種検査へ
アセスメントの後、確定診断のために、胸部X線どを行います。