腎臓の健康を保つことは全身の健康のために重要
大阪大学は、加齢にともなう腎機能低下のメカニズムや、腎臓病の早期診断、治療方法について最新の研究報告をまとめた総説を発表した。将来の臨床応用を見据えた視点から解説している。
日本では老化関連疾患の発生率が増加しており、慢性腎臓病(CKD)の増加が顕著だ。加齢にともなう腎機能低下はCKDの増加に直結し、社会的および経済的に大きな負担となっている。
「今回の総説は、老化による腎疾患の早期診断と、老化メカニズムを標的とした新しい治療法の開発に重要な示唆を与えるものです。また、CKD自体が全身の老化を加速させることから、腎臓の健康を維持することが全身の健康を保つために重要であることを強調しています」と、研究者は述べている。
研究は、大阪大学医学系研究科の山本毅士特任助教、猪阪善隆教授(腎臓内科学)らによるもの。研究成果は、「Nature Reviews Nephrology」にオンライン掲載された。
腎臓病は他臓器の老化を加速させ、心血管疾患、認知機能障害、サルコペニア、フレイルのリスクも高める
腎臓病は心血管疾患・認知症・サルコペニアのリスクを高める
医療技術の進歩により日本人の平均寿命は延びているが、同時に加齢にともなう病気の発症率も増加している。とくに日本では高齢化が進むなか、腎臓病を発症する人が増えている。
慢性腎臓病(CKD)の進展や急性腎障害(AKI)の脆弱性は、老化の古典的な特徴と重なるさまざまな病的メカニズムの影響を受ける。
CKDは、他臓器の老化を加速させ、心血管疾患、認知機能障害、サルコペニアなどの増加としてあらわれ、フレイルのリスクを高める。一方、フレイルと早期老化は、腎老化とCKD病態をさらに悪化させる。
研究グループによると、CKDは電解質異常や高血圧のリスクを高めるだけでなく、治療や検査で医療的な制約をもたらすことがある。加齢にともなう腎機能低下はCKDの増加に直結し、社会的および経済的に大きな負担となっている。
総説では、老化の特徴として知られるいくつかの生物学的プロセスが腎臓病の発症や進展にどのように関連しているかを明らかにしている。
腎臓は代謝的に非常に活発な臓器であり、年齢とともにその機能が低下する。この機能低下には、細胞老化、炎症、ミトコンドリアの働きの低下、サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)、クロトー(抗老化ホルモン)といったタンパク質のシグナル伝達の変化、オートファジーやリソソームの働きの変化など、さまざまな分子レベルのメカニズムが関与している。
これらの要因が腎臓の老化を促進させている。
加齢にともない腎臓病が増えるメカニズムを解明
研究グループは総説の前半で、とくにオートファジーの役割や加齢にともなうオートファジー活性の変化に焦点をあてている。
オートファジーは、細胞内を正常な状態に保つために、細胞が自己成分を分解する機能のこと。生命維持に欠かせない細胞がもつシステムと考えられている。
オートファジーは、エネルギーの再利用や、細胞内小器官の修復にも関与している。分解基質がオートファゴソームという二重膜小胞に隔離され、分解酵素に富むリソソームに融合することで分解が行われる。
若いマウスの腎近位尿細管では、ストレスに対してオートファジーが活性化し、適応機構としてストレスに対抗しようとする。しかし、高齢マウスの腎近位尿細管では、持続的な加齢ストレスに対抗するためのオートファジーが働いているものの、さらなるストレスに対してオートファジー活性を十分に増加させることができなくなる。
このような加齢にともなうオートファジーの調節異常は、リソソームの機能不全やオートファゴソームの成熟の異常によって引き起こされる。具体的には、加齢とともに転写因子MondoAの活性低下が、オートファジーを抑制する働きをもつタンパク質であるルビコン(Rubicon)の発現を増加させ、これがオートファゴソームの成熟を負に調節する。
こうした腎老化の病的メカニズムは、CKDの進展やAKIの脆弱性に悪影響を与える。
腎臓病は老化を加速する 「年齢ギャップ」の原因に
研究グループは次に、生物学的年齢と暦年齢(実年齢)の概念を紹介している。生物学的老化は、組織や生体機能の低下をさし、暦年齢は出生からの時間の経過を示す。
CKDは心血管疾患、認知機能障害、サルコペニアなどの老化関連疾患の発症や併存疾患の増加を引き起こし、フレイルのリスクを高める。さらに、早期老化とフレイルは腎臓の老化と腎疾患の病態を悪化させ、悪循環を形成する。
正常に老化している個体では、暦年齢と生物学的年齢は一致する。しかし、CKDは腎臓の生物学的加齢を加速させ、早期老化を促進する。
そのため、個人の生物学的年齢と暦年齢の差異である「年齢ギャップ」が生じる。
総説の後半では、前半で解説した腎老化のメカニズムに関連して、新しい技術とバイオマーカー(体の状態を示す指標)、そして新規治療法の可能性についても解説している。
新しい技術とバイオマーカーは、腎臓の老化や早期老化の早期発見、診断、管理に役立つことが期待されている。とくに、炎症、ミトコンドリア機能、酸化ストレス、細胞老化、オートファジー・リソソーム系に関連する経路を標的にした治療法は、動物実験で、腎臓の老化を予防・遅延させることが判明している。
老化を遅らせることが腎臓の健康につながる
「今回発表した総説は、腎臓の老化のメカニズムを理解し、老化関連腎疾患の早期診断と治療法の開発に役立つものです。腎臓の健康を維持することが全身の健康を保つために重要であることを強調しています。高齢者におけるCKDの特徴を理解し対策することの重要性が、これまで以上に社会に認知されることが期待されます」と、研究者は述べている。
「現在のところ、動物実験で成功した老化を遅らせる治療法は、臨床現場で広く適用できるものではありません。しかし、老化・寿命を研究する基礎医学や抗加齢医学の分野は着実に発展しており、新しい診断技術や治療法の開発はめざましく進んでいます」。
「これらの技術が患者さんの治療に用いられる未来は、それほど遠くないかもしれません。同時に、どのような老化病態に対して抗老化治療を適用すべきかを慎重に考えることも重要です」としている。
大阪大学医学系研究科
大阪大学 腎臓内科学
Pathological mechanisms of kidney disease in ageing (Nature Reviews Nephrology 2024年7月18日)