なぜ、椎体骨折なのに鼠径部や腹部、臀部が痛くなるのか?

 

急性骨粗鬆症性胸腰椎骨折における疼痛部位と骨折の種類との関連性

Zhang, Haiping, et al. "Pain Location Is Associated with Fracture Type in Acute Osteoporotic Thoracolumbar Vertebral Fracture: A Prospective Observational Study." Pain Medicine 23.2 (2022): 263-268.

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✅ 前提知識:この研究で用いられている骨折タイプの定義
- Tyep1:上部終板型(upper endplate)
- Type2:中心型(central)
- Type3:下部終板型(lower endplate)
- Type4:破裂型(burst)

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📕 Lotz et al. Global spine journal 3.3 (2013): 153-163. >>> doi.

[背景・目的] 本研究では、急性骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)患者を対象に、疼痛部位と骨折の種類との関係を検討した。

[方法] デザイン前向きの観察研究。対象急性期 OVF 患者 306 例を対象とした。方法各患者の疼痛部位を記録し、骨折部位の疼痛を有する群(第1群)と非骨折部位の疼痛を有する群(第2群)に分けた。骨折は4つのタイプに分類された:タイプI:上部終板型,タイプII:中央型,タイプIII:下部終板型,タイプIV:破裂型.

[結果] 第1群は146名で、そのうちI型骨折が20.55%(30/146)、II型骨折が33.56%(49/146)、III型骨折が15.75%(23/146)、IV型骨折が30.14%(44/146)であった。第2群は227名で、I型骨折が57.27%(130/227)、II型骨折が5.29%(12/227)、III型骨折が35.24%(80/227)、IV型骨折が2.20%(5/227)であった。両群の骨折タイプ分布には統計的な差があった(P < 0.05)。初診時のVisual analog scale scoreは,第1群の方が第2群より高かった(P < 0.05).

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[結論] 急性外骨腫の場合、痛みの部位は骨折の種類と関連している。骨折部位の痛みは中心型と破裂型に多く、非骨折部位の痛みは上部・下部終板型に多く認められる。OVFが疑われる場合、骨折部位の遠位で痛みを引き起こす可能性のある骨折をよりよく検出するために、胸椎と腰椎のX線評価が推奨される。

 

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

ずっと、不思議に思っていた。

なぜ、椎体骨折なのに鼠径部や腹部、臀部、果ては大腿部が痛くなるのだろう?

今回の研究は、その仕組みの1つを示唆してくれた。
すなわち、椎体終板(endplate)の関わりである。
椎体終板に損傷を認める場合には、非骨折部に関連痛が生じやすい


・・・。
しかし、それは、なぜだろう?
1つのなぜの解決は、もう1段深いところで、次のなぜにつながっている。


勉強してみたところ、解剖学的な要因に活路を見出した。
その活路は、「椎体を直接支配する神経」と「椎間板を支配する神経」という異なる2つの神経支配と椎間終板との関わりである。

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📗ミニレビュー①:椎骨神経(椎体を直接支配する神経)
- 椎骨神経は、椎体の海綿骨に神経を供給
- 神経は中央に位置する後血管孔から椎体に入り、椎体基底血管に付随していることが確認された。これらの神経から分岐した枝は、椎体の中心部と末梢部の両方に走行していた(📕Antonacci, 1998 >>> doi.)。
- 神経の大部分は血管壁に隣接しており、その結果、神経の分布はこれまでに確立された血管パターンに酷似していた(📕Bailey, 2011 >>> doi.)

📗ミニレビュー②:副神経(椎間板を支配する神経)
- 副神経は腹側枝から発生する反回神経で、椎間孔を経由して脊柱管に再び入り、複数の髄膜および非髄膜構造を神経支配する(📕Shayota, 2019 >>> doi.)
- 腰痛を主訴とする患者 120 例のうち、26% (95% CL, 18%, 34%) の患者に椎間板性疼痛を認めた(📕Manchikanti, 2001 >>> site.)
椎間板変性による疼痛の特徴として、痛みが臀部、鼠径部、および大腿上部に広がることがある。この痛みは通常、痛みや鈍さを感じ、軽度から重度の範囲に及ぶ(🌍 参考サイト >>> site.)
- 背部、左臀部、大腿後面の痛みを有した症例に対し、L5-S1(椎間板外縁部)に対して経鏡的な表在レーザー焼灼術を行い、照射中,患者は腰部と下肢の激痛を訴え,レーザーによるホットスポットの焼灼後,痛みが軽減し,運動機能低下の改善が認められた(📕Choi, 2018 >>> doi.)。

ミニレビューから、副神経は関連痛・放散痛を引き起こす可能性が高い神経である。
そして、椎体終板は椎骨神経と副神経両者によって支配される部位である。
一方、椎体中央部は、副神経による支配が少なくなる。


以上より、椎体終板は、関連痛・放散痛を引き起こす副神経が多分に関わっているから、そこが損傷すると非骨折部の疼痛が生じやすいのかもしれない、という推察がたつ。