外科手術の“邪魔者”だった「ファシア」の意外な役割

医師直伝「筋膜ケア」 しつこい凝りや痛み…原因不明の不調を解消!:しつこい凝りに効く「筋膜」ケア:日経Gooday(グッデイ) (nikkei.co.jp)

 

医師直伝「筋膜ケア」 しつこい凝りや痛み…原因不明の不調を解消!:しつこい凝りに効く「筋膜」ケア:日経Gooday(グッデイ) (nikkei.co.jp)

外科手術の“邪魔者”だった「ファシア」の意外な役割

 「ファシア」と言われてもピンとこない…でも、筋肉を包んでいる「筋膜」という言葉は耳にしたことがある、という方は多いかもしれない。この筋膜もファシアの一部。ファシアとは、内臓や筋肉などを梱包材のように包む結合組織の総称で、このうち筋肉を包むファシアは筋膜と呼ばれている。

ファシアは真皮の下、脂肪と筋肉の間にファシアは真皮の下、脂肪と筋肉の間にある
ファシアには「浅層ファシア」と、筋膜を含む「深層ファシア」がある

 高平氏がファシアの重要性を知るきっかけとなったのは、2001年に発行された『Anatomy Trains(アナトミー・トレイン)』という解剖学の書籍(日本語版の初版は2009年に医学書院から発行)。世界各国で統合的ボディワークの講演や実技指導をしている米国の Thomas W. Myers(トーマス・マイヤース)氏によるものだ。

 一般的な解剖学では、個々の筋肉をそれぞれ独立して存在するものとして論じてきた。だが、今や身体科学のバイブルとも言われるこの本では、個々の筋肉を包む筋膜同士はつながり合い、力を伝達したり、影響を与え合うラインを形成していると説く。

 筋膜は、前述した通り「ファシア」と呼ばれる結合組織の一部であり、ファシアは、皮膚の下に存在する、綿菓子のように柔らかく、縦横斜めに伸び縮みする、網目状の組織だ。高平氏ら整形外科医は、骨折のときなどに骨同士を金属プレートでくっつける骨接合術を行うが、このとき皮膚を切り、筋肉を分けて骨に到達する必要がある。ファシアはそこに到達する前に必ず存在するため、多くの医師はこの組織を“邪魔者”としてよけて剥がすのだという。

 「ファシアは手でグイッと押したりするだけで、簡単に剥いだり寄せたりできるのです。しかし、その際、毛細血管から出血すると、ファシアが癒着して固まったりする原因になります。そして、“ファシアに不具合が生じると筋肉や関節の動きに悪影響がある”ことを、経験的に私は知っていました。手術から2年ぐらいして、体内に入れていた金属プレートを取り除く“抜釘術(ばっていじゅつ)”をすると、手術時に剥がして放置したファシアに癒着が起こっていて、本来は柔らかいファシアが、硬くなり筋肉などにべっとりとくっついている。その癒着を丁寧に剥がして患部を閉じると、それまで動きが悪くなっていた関節の動きが見違えるように良くなることがある。このようなことから、ファシアはただの邪魔者ではなく、何らかの機能を果たしているのだ、と気づき始めました」(高平氏

 2010年以降、高平氏は股関節手術において、なるべく筋肉などの組織を切開しない「最小侵襲手術」に取り組んでいるが、「このときにもファシアを丁寧に扱い、できるかぎり剥がさず、癒着の原因となる出血を起こさないように手術を行うと、術後のリハビリがほとんど必要なくなるほど、回復が良いことを実感しています」(高平氏)と言う。

 高平氏によると、ファシアの硬化や癒着は生活習慣などによっても起こり、しつこい凝りや痛みといった、原因のはっきりしない慢性症状とも密接に関連する。ファシアを効果的に刺激することが、そうした症状の改善につながることも分かってきた。