横歩き時間と動的バランス能力との関連性

〔目的〕

横歩き歩行時間が動的バランス能力の指標として利用できるかについて,再現性の検討,また既存のバランス指標との比較検討を目的とした.〔対象〕屋外独歩可能な 65 歳以上の高齢者 26 名(男性 8 名・女性 18 名).

 


〔方法〕

横歩き歩行時間,開眼片脚立位保持時間,timed up and go test(TUG)の 3 項目を測定した.

 

〔結果〕

左右横歩き歩行時間の ICC(1,1)は高値を示した.横歩き歩行時間と TUG との間に正の強い相関が認められた.

 

 

〔結語〕

測定の再現性は良好であった.また,動的バランス指標として信頼性の高い TUG との相関が強く認められたことから,横歩き歩行時間が動的バランスの指標として用いることができる可能性が示された.

 

[考 察]
本研究は , 横歩き歩行時間を計測するための再現性,また,横歩き歩行時間と既存する評価指標との関連性を検討した.

 

今回の研究では,検者内再現性は,右横歩き歩行時間の ICC(1,1)は,0.87 であった.左横歩き歩行時間の ICC(1,1)は 0.91 であった.桑原らは 10),大きな目安として級内相関係数が 0.9 以上の場合,その再現性は優秀であると評価している.このことから本研究における右横歩き歩行時間と左横歩き歩行時間の ICCは高値を示し,測定の再現性は良好であると考えられた.

 

横歩き歩行時間,開眼片脚立位保持時間,TUG の関連性においては,横歩き歩行時間と開眼片脚立位保持時間では負の相関,

また,横歩き歩行時間と TUG では,正の強い相関が認められた

 

一般的に動的バランス能力の指標としては,前方への重心移動に関するものが主である.

 

側方へのバランス能力の指標に関しては,静的バランスの指標としての片脚立位保持時間が多く用いられるが,動的バランスに関する指標については,その数が限られているのが現状である.そのなかの一つ,藤澤らによるサイドステップ長を計測するテストは,サイドステップ動作による側方への重心移動能力(最大サイドステップ長)が歩行能力と有意な相関があることを明らかにした 9).


歩行における加齢の影響には歩行速度の低下が挙げられ,その主な要因としては歩幅の減少が指摘されている 5)


横歩き動作は静止立位から側方への運動を開始し,体重心を移動させ,再び静止立位姿勢に戻る動作である.先行研究により,側方への重心移動は歩行能力と有意な相関があるとされ,歩行能力に側方へのバランス制御が重要な影響を与えていると示されている 7).

 

横歩きと歩行はともに,片脚立位において閉鎖性運動連鎖による下肢の協調運動を伴うこと,さらにサイドステップ長が大きくなるほど片脚支持期における股関節および膝関節屈曲角度と足関節背屈角度が大きくなり,歩行における歩幅の増大に対応した関節運動の増大という共通点を持つとされている 5).

 

本研究では,横歩き歩行時間と開眼片脚立位保持時間に負の相関が示された.これは,以上のような構成要素の存在が今回の相関を示した理由であると考えられる


また,今回 TUG との相関が強く認められた理由として,TUG 測定の着座動作時に行われる,身体方向転換後の椅子と身体を正確に位置させる動作がスムーズに行われるか,行われないかという点で横歩き能力との関連がみられるのではないかと考える.着座動作がスムーズに行われない者の特徴として,着座前に複数回左右へのステップを行い,身体位置を調整させることに時間を要する場面がみられた

 

歩行能力を判断するうえで,動的指標として信頼性の高い TUG との相関が強く認められたことは,横歩き動作がバランスの動的指標として用いることができる可能性が示された.

 

静的バランス指標として用いられている,片脚立位保持時間と横歩き動作との相関が低かったことは,横歩き動作が静的指標よりも動的指標として応用がきくことが考えられる.

 

その意味で,横歩き歩行時間は本テストの検者内再現性は良好であることから,動的バランス能力の一指標としての応用が期待できると考えた.

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/29/5/29_789/_pdf/-char/ja