夕暮れ症候群のある認知症

 

 

眠気には深部体温(脳の温度)が深く関わっています

 

成人の場合、平均すると午後9時前後に脳温が最も高まり、それ以降、急激に低下することで眠気が強まるのですが、高齢者はこのリズムが若い頃に比べて早まり、早寝早起き型になります。

 

 

とりわけ、夕暮れ症候群のある認知症の方はリズムが極端に前倒しになり、早い時間帯から脳温が低下してくるという研究報告もあります認知症によって、脳を目覚めさせる神経(覚醒系神経)の機能に障害がある人もいます。これらの原因から夕暮れ症候群のある認知症の人は、夕方頃から覚醒度が下がって認知症症状が強まるというわけです。

 

 

 少し眠い程度で認知症がそれほど悪化するのかと疑問に思うかもしれません。もちろん、脳神経の障害(変性、死滅)は一気に進んでいるわけではありません。しかし、認知症によって脳機能が低下している状態だからこそ、少しの眠気でも記憶力や見当識が一時的に悪化してしまうケースがあるのです。脳機能が未発達な赤ちゃんが眠くなると不機嫌になって駄々をこねたり、もうろうとして泣き出したりするのと理屈は同じです。

 

 

 夕方になり、周囲が暗くなることも夕暮れ症候群を悪化させる一因です。光にはモノを見るだけではなく、覚醒度を高めたり、気分を改善させたりする作用があります。晴れた日には気分が良く、目覚めも爽快であるのに対し、曇天や雨の日には何となくどんよりした気分になるのを経験した方も多いと思います。実はその日の環境光の明るさが、交感神経機能や脳内のセロトニン(気分を調節するホルモン)の活動性を短時間で調節していることが明らかにされています

 

 

夕方になって周囲が暗くなると不安感が強まり、時には不穏な気分にさえなっている認知症の方は、覚醒度や体温や気分の調節に変化が生じていることがあるのです。部屋の照明をしっかりと明るくすることで夕暮れ症候群を軽減できたという研究報告もあります