高齢者は、幸せな顔の表情ではなく、悲しい顔の表情に対する視覚的注意力が低下し、知覚が損なわれる

 

顔の感情表現:老齢者と若年者の知覚領域から運動領域まで

Loi, Nicola, et al. "Faces emotional expressions: from perceptive to motor areas in aged and young subjects." Journal of Neurophysiology 126.5 (2021): 1642-1652.

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✅ ハイライト
- 本研究では、高齢者は、幸せな顔の表情ではなく、悲しい顔の表情に対する視覚的注意力が低下し、知覚が損なわれることを示した。逆に、悲しい顔ではなく、幸せな顔を見ると、年齢に関係なく、顔M1の興奮性が両側で高まる
- 悲しい表情に対する注意力が低下する一方で、幸せな表情の知覚は維持され、さらに後者が顔面M1の興奮性を高める効果があることから、高齢者はポジティブな感情に近づこうとする意欲が高いと考えられる。

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[背景・目的] 顔の表情の知覚と生成における年齢の役割はまだ明らかになっていない。そこで本研究では、高齢者と若年者を対象に、異なる感情を表す顔を受動的に見ることが、後頭葉や側頭葉などの知覚脳領域や、顔面下部の筋肉を支配する一次運動野(M1)に与える影響を比較した。

[方法] 若年者17名(24.41±0.71歳)と老年者17名(63.82±0.99歳)を対象に,事象関連電位(ERP)の記録,顔面M1への経頭蓋磁気刺激によって誘発される角膜下筋の運動電位の記録,および反応時間の評価を行った。両群とも,喜怒哀楽を表現した顔画像の提示から300ms後に,顔面M1においてP100波とN170波,および短遅延皮質内抑制(SICI)と皮質内円滑化(ICF)を調べた。

[結果] ERPデータは、年齢に関係なく、顔の知覚処理に右半球が大きく関与していることを示していた。若年者と比較して、高齢者は、悲しい表情を見た後のN170波が遅れ、P100波が小さくなるとともに、顔に表れた感情を認識する精度が低く、反応時間も長くなった。また、高齢者は若年者よりもSICIが少なかったが、幸福の表情は顔面M1の興奮性を増加させ、グループ間の差はなかった

[結論] 以上の結果から、高齢者は若年者に比べて悲しい顔の表情の符号化が障害されているが、幸福の知覚とその顔面M1の興奮性は維持されていることが示唆された。