運動による脳の覚醒効果

 

ウォーキングに相当する軽い運動で集中力や記憶力が高まります。その脳内メカニズムは、脳の神経核の一つで脳幹に存在する青斑核の活性化であることを示唆するデータが、MRI(磁気共鳴画像化装置)を用いた実験で得られました。

 

軽い強度の運動を行うと頭がスッキリしたような気分になり、注意・集中力や記憶力が高まります。この脳内メカニズムとして、脳幹の覚醒中枢が活性化し、脳全体の覚醒レベルが高まることが考えられます。しかし、脳幹の運動中の活動を正確に計測することは困難でした。

 

征矢らは昨年、ヨガやゆっくりとしたウォーキングに相当する軽い(超低強度)運動を行うと、心理的な覚醒度が増大すると同時に瞳孔が拡大することを発見しました

 

瞳孔は、脳内の覚醒系の中でも、脳幹にある青斑核の活動状態を反映するとされます。このため、超低強度運動により青斑核が活性化する可能性が浮かびました。

 

本研究では、この仮説を検証するため、青斑核の神経細胞に含まれる色素(神経メラニン)に由来する MRI(磁気共鳴イメージング)の信号値と、超低強度運動による瞳孔拡大や心理的覚醒度増大の関係を横断的に調べることにしました。神経メラニンに由来する MRI 信号値は青斑核の反応性(活動のしやすさ)と関連することが知られているからです。

 

 

実験では、健常な若年男性 21 人を対象に、青斑核における神経メラニンの凝集量を MRI で信号化しました。また、参加者には別日に超低強度運動を行ってもらい、瞳孔径および心理的な覚醒度の変化を測定しました。

 

その結果、青斑核における神経メラニンの信号強度と超低強度運動による瞳孔や心理的覚醒度の変化の間には関係があり、高信号値を示した人ほど瞳孔拡大や覚醒度増大の程度が大きいことが分かりました

 

 

 

 

上記の通り、神経メラニンに由来する MRI 信号値の強さは青斑核の反応性と関連することから、高信号の人はそうでない人より運動時の青斑核の活動が大きく、結果として運動に対する瞳孔や覚醒度の反応も大きかった可能性が考えられます.

 

青斑核を含む脳幹の覚醒中枢が超低強度運動によって活性化し、気分や認知機能の向上につながるとする仮説を支持する結果であると言えます。

 

 

 

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