高齢者の筋機能および姿勢制御能力に対する低強度爆発的筋力発揮トレーニング効果検証
加藤丈博(PT)1),池添冬芽(PT)2),市橋則明(PT)1)
1)京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
2)関西医科大学リハビリテーション学科
研究1)加齢に伴う最大筋力および爆発的筋力の変化
1. 研究目的
本研究の目的は、加齢に伴う最大筋力(MVIC)と爆発的筋力(early-RFD)の変化を明らかにすることです。特に、20歳から60歳以上の健常女性を対象に、年齢による筋力の変化を定量的に評価し、加齢が筋機能に与える影響を理解することを目指しました。
2. 対象
研究対象は、健常女性85名で、年齢層を以下の4つに分類しました:
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20-30歳台: 25名(平均年齢29.3 ± 6.4歳)
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40歳台: 22名(平均年齢45.4 ± 2.6歳)
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50歳台: 17名(平均年齢54.0 ± 2.8歳)
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60歳以上: 21名(平均年齢64.9 ± 5.7歳)
対象者は、健康状態が良好であり、過去に重大な運動障害や病歴がないことが確認されました。研究は倫理委員会の承認を得て実施されました。
3. 方法
3.1 筋力測定
筋力測定は、利き足を用いて行い、股関節屈曲95度、膝関節伸展0度、足関節底背屈0度の長座位で足関節底屈の最大等尺性筋収縮を測定しました。具体的には、メトロノーム音(60 bpm)に合わせて、1秒間の求心性収縮とその後の3秒間の休息を1回として数え、これを10回3セット実施しました。セット間には60秒の休息を設け、対象者には「できるだけ素速く・強く」筋収縮を行うよう指示しました。
3.2 統計解析
データ解析にはSPSS ver.22を使用し、反復測定分散分析を行いました。MVICおよびearly-RFDを年齢群間で比較し、有意水準は5%と設定しました。
4. 結果
筋力測定の結果、MVICにおいては群間の有意差は見られませんでしたが、early-RFDに関しては20-30歳の群に対して、50歳以上の群で有意に低下していることが確認されました(F=6.8, p<0.05)。この結果は、加齢に伴う爆発的筋力の低下が早期から始まることを示唆しています。
5. 考察
本研究では、加齢に伴う筋力の変化を明らかにし、特に爆発的筋力の低下が50歳以上で顕著であることが示されました。これにより、加齢に伴う筋機能の低下を理解し、効果的な運動プログラムを設計する上での基礎となる知見が得られました。
研究2)筋機能および姿勢制御能力に対する低強度高速度トレーニングの即時効果
1. 研究目的
本研究の目的は、低強度高速度トレーニングが筋機能および立位姿勢制御能力に与える即時的な効果を検証することです。特に、トレーニング前後の筋力と姿勢制御能力の変化を定量的に評価し、トレーニングの効果を明らかにすることを目指しました。
2. 対象
研究対象は、健常成人24名で、年齢層は20歳から60歳以上の範囲で構成されました。対象者は、健康状態が良好であり、過去に重大な運動障害や病歴がないことが確認されました。研究は倫理委員会の承認を得て実施されました。
3. 方法
3.1 等速性収縮運動介入
運動介入群には,多用途筋機能評価運動装置(BDX4X,BIODEX 社製)を用いて足関節底屈の等速性収縮運動を実施した。アームの角速度を毎秒 120 度に設定し,足関節背屈 10 度位から底屈 20 度まで足関節底屈の求心性収縮のみを行った。メトロノーム音(60 bpm)に合わせて,1 秒間の求心性収縮と直後の 3 秒間の休息を 1回として数え,10 回 3 セット実施した。セット間は 60秒間の休息とした。対象者にはアームが動き始めるのに合わせて「できるだけ素速く・強く」筋収縮させるように指示した
3.2 測定方法
トレーニング前後に、MVICとearly-RFD、姿勢制御能力を測定しました。姿勢制御能力は、重心動揺計を用いて評価され、トレーニングの効果を定量的に分析しました。
3.3 統計解析
データ解析にはSPSS ver.22を使用し、トレーニング前後の測定値を比較するために反復測定分散分析を行いました。有意水準は5%と設定しました。
4. 結果
トレーニング後の測定結果では、early-RFDと姿勢制御能力が有意に改善されていることが確認されました。具体的には、トレーニング前に比べて、筋機能が向上し、立位姿勢の安定性が増したことが示されました。
5. 考察
本研究では、低強度高速度トレーニングが筋機能および立位姿勢制御能力に与える即時的な効果を検証しました。トレーニング後の結果から、early-RFDと姿勢制御能力が有意に改善されたことが確認され、これは低強度高速度トレーニングが筋機能の向上に寄与することを示しています。特に、姿勢制御能力の改善は、日常生活における動作の安定性を高め、転倒リスクの低減に寄与する可能性があります。
低強度高速度トレーニングは、筋肉の収縮速度を重視したトレーニング方法であり、特に高齢者や運動不足の人々にとって、筋力を維持・向上させるための効果的な手段となることが期待されます。加齢に伴う筋力の低下や運動機能の低下は、生活の質を低下させる要因となるため、早期の介入が重要です。本研究の結果は、低強度高速度トレーニングがそのような介入の一環として有効であることを示唆しています。
また、トレーニングの即時効果が確認されたことは、短期間での運動介入が筋機能や姿勢制御能力にポジティブな影響を与える可能性を示しています。これは、特に高齢者やリハビリテーションを必要とする患者に対して、短期間での運動プログラムの導入が有効であることを示唆しています。今後の研究では、トレーニングの頻度や強度、期間が筋機能や姿勢制御能力に与える影響についても検討する必要があります。
さらに、トレーニングの効果を持続させるための戦略や、他の運動プログラムとの組み合わせについても考慮することが重要です。特に、低強度高速度トレーニングを他の筋力トレーニングや有酸素運動と組み合わせることで、より効果的な運動プログラムを設計することができるでしょう。これにより、加齢に伴う筋力の低下を防ぎ、健康的な生活を維持するための新たなアプローチが提供されることが期待されます。