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Rehabilitation Science Blog

遠心性トレーニングは、筋の硬さを軽減する可能性

 

筋力トレーニングしながら筋肉が柔らかくなる! スポーツの常識を覆す研究結果


筋力を高めながら筋肉を柔らかくできるトレーニング手法を同志社大学の研究グループが開発し、約10週間におよぶ実験結果として発表した。これにより、「筋トレで筋肉が硬くなる」とされてきたスポーツの常識が覆されるかもしれない。

 

筋肉は強くなるだけでは壊れやすいので、同時に柔らかくしなければならない──。これはスポーツの世界で“常識”とされてきた考えだ。

 

筋肉の硬さは、筋力と同様にアスリートにとって重要である。筋肉の硬さが増すとケガのリスクが高まるほか、一部のスポーツではパフォーマンスに悪影響をもたらす可能性があるからだ。このため、アスリートは筋力トレーニングによって筋力の向上に励む一方で、筋肉が硬くならないようにストレッチングに取り組む。

 

それなら、筋力トレーニングで筋力を高めながら、筋肉を柔らかくできれば効率的だ。このような“一石二鳥”ともいえる筋力トレーニングの手法を提案する論文が、2024年7月16日に学術誌『Medicine & Science in Sports & Exercise』で発表された。論文を手がけたのは、同志社大学研究開発推進機構で特別任用助教を務める川間羅聖の研究グループである。


川間らの論文によると、負荷をかけながら筋肉をゆっくり大きく伸ばす動作に限定すれば、筋力を高めながら筋肉を柔らかくできる可能性があるという。こうした筋力トレーニングとストレッチングを組み合わせた方法を、川間らは「筋トレッチング」と呼んでいる。川間らは今回の研究発表に向けて、「スティッフ・レッグ・デッドリフトSDL)」と呼ばれる筋力トレーニングに筋トレッチングの考えを組み合わせることで、新たなトレーニング手法を開発した。

 

筋トレッチングのSDL、「スティッフ・レッグ・デッドリフトSDL)」は、ハムストリングスがやや伸びた状態からスタートして、ゆっくり大きな動作で取り組む。これにより筋肉に負荷を与えながら、ストレッチングのように時間をかけて大きく伸ばすことを狙った

 

筋トレッチング版SDLでは、1回の動作に5秒かける。さらに動作の範囲は股関節の可動域の50%から100%としており、バーベルをひざあたりまで下げた位置からスタートして、足首あたりまで前屈する

 

 

 

約10週間にわたる実験の結果は?


川間らの研究では、筋トレッチングの効果を検証するために、36名の健康な若年男性を12名ずつの3グループに分けて実験を実施した。具体的には、週2回のトレーニング群、週3回のトレーニング群、トレーニング非実施群といったグループ分けである。トレーニングには筋トレッチング版SDLを指定し、トレーニング期間は10週間とした。なお、バーベルの重さは参加者の体重に合わせており、1〜4週目は体重の60%、5〜7週目は65%、8〜10週目は70%と、徐々に負荷を高めている。

 

そしてトレーニング期間の終了後、それぞれの参加者のハムストリングスについて、大腿二頭筋長頭、半腱様筋、半膜様筋といった構成要素ごとに筋肉の硬さや体積を調べた。測定のタイミングはトレーニング期間の終了日から3〜7日後で、これは持続的な効果を調べるためである。

 

測定の結果、週3回のトレーニング群では、ハムストリングスの一部である半膜様筋の硬さが11.4%の割合で低下していた。これに対して半膜様筋の体積は7.4%の割合で増加した。さらにハムストリングス全体の筋力を測定すると、26.2%の割合で増加していた。この実験結果について、川間は次のように説明する。

 

ハムストリングスのなかでも最も硬いとされる半膜様筋に、筋トレッチング版SDLの効果が現れたと考えられます。まだ半膜様筋だけではあるものの、筋肉に負荷をかけながらゆっくり大きく伸ばせば、筋力を高めると同時に筋肉を柔らかくできることを確認できました

 

川間によると、激しい筋力トレーニングの直後であれば、筋肉が一時的に硬くなる現象はよく知られているという。しかし、筋力トレーニングの影響で筋肉が長期的に硬くなるといった報告は、川間の調べによると24年までに1件だけだった。

 

一方で近年になるにつれ、静的ストレッチングを長期間にわたって繰り返すことで筋力が低下したり、筋肥大へのトレーニング効果が弱まってしまうことも報告されている。こうした研究の流れを背景に、川間は筋トレッチングの意義を次のように説明する。

 

長期的な観点で言えば、筋力トレーニングで筋肉が硬くなるという説はエビデンスで裏付けられていないと考えています。さらに、静的ストレッチングのデメリットがいくつか報告されている動向を踏まえると、筋肉を柔らかくするためのアプローチとして今後は筋力トレーニングが注目されるかもしれません。筋トレッチングの開発は、筋力トレーニングにパラダイムシフトを起こすための第一歩なのです」

 

journals.lww.com



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