睡眠の質に対する主観的な評価と客観的な評価の相関関係について、米国の主要な研究論文から得られた数値データをもとに、表を作成し解説します。
睡眠の質:主観的評価と客観的評価の相関関係
睡眠の質の評価には、本人の感覚に基づく「主観的評価」と、機器を用いて生理学的データを測定する「客観的評価」の2つのアプローチがあります。一般的に、これら2つの評価間の相関は、多くの研究で**「弱い(weak)」から「中程度(moderate)」**であると報告されています。つまり、自分では「よく眠れていない」と感じていても、客観的なデータ上は睡眠がとれている、あるいはその逆のケースが少なくないことを意味します。
以下に、それぞれの評価方法の代表例と、両者の相関を示した米国の研究論文のデータをまとめます。
主な評価方法
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主観的評価 (Subjective Assessment)
- ピッツバーグ睡眠質問票 (PSQI: Pittsburgh Sleep Quality Index): 過去1ヶ月間の睡眠の質を評価する、世界的に広く利用されている質問票。
- 睡眠日誌 (Sleep Diary): 日々、就床時刻、起床時刻、寝付くまでの時間、夜中に目覚めた回数などを記録するもの。
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客観的評価 (Objective Assessment)
主観的評価と客観的評価の相関に関する研究データ
以下の表は、主観的評価指標と客観的評価指標の特定の項目間における相関係数 (値) を示したものです。相関係数 () は-1から+1の間の値をとり、+1に近いほど強い正の相関、-1に近いほど強い負の相関、0に近いほど相関が弱いことを意味します。一般的に、で中程度、で強い相関があると解釈されます。
表1:主観的睡眠評価と客観的睡眠評価の相関係数 () の比較
| 論文 (著者, 年) | 対象者 | 主観的評価 | 客観的評価 | 比較項目 | 相関係数 () | 相関の強さ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| **Buysse et al. (1989)**¹ | うつ病患者、不眠症患者、健常者など | PSQI | PSG | 全体的な睡眠の質スコア | 弱い | |
| **Grandner et al. (2006)**² | 健常な成人 | 睡眠日誌 | アクチグラフィ | 総睡眠時間 (TST) | 弱い | |
| 睡眠日誌 | アクチグラフィ | 睡眠潜時 (SL) | 中程度 | |||
| 睡眠日誌 | アクチグラフィ | 中途覚醒時間 (WASO) | 中程度 | |||
| **Landry et al. (2015)**³<br>(レビュー論文より抜粋) | 健常な成人 | 睡眠日誌 | アクチグラフィ | 総睡眠時間 (TST) | (平均 ) | 弱い〜強い<br>(中程度) |
| 睡眠日誌 | アクチグラフィ | 睡眠潜時 (SL) | (平均 ) | 弱い〜強い<br>(中程度〜強い) | ||
| 睡眠日誌 | アクチグラフィ | 睡眠効率 (SE) | (平均 ) | 弱い〜強い<br>(中程度) | ||
| **Jackowska et al. (2016)**⁴ | 健康な中年女性 | PSQI | アクチグラフィ | 総睡眠時間 (TST) | ほぼ無相関 | |
| PSQI | アクチグラフィ | 睡眠潜時 (SL) | 弱い | |||
| PSQI | アクチグラフィ | 睡眠効率 (SE) | 弱い負の相関 |
- TST (Total Sleep Time): 総睡眠時間
- SL (Sleep Latency): 睡眠潜時(寝付くまでの時間)
- WASO (Wake After Sleep Onset): 中途覚醒時間
- SE (Sleep Efficiency): 睡眠効率(ベッドにいる時間のうち、実際に眠っていた時間の割合)
分析と考察
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全体的な相関は弱い傾向: PSQIのような、過去1ヶ月間の全体的な睡眠の質を問う主観評価と、PSGやアクチグラフィによる客観的な測定値との相関は、全体的に低い傾向にあります ()。これは、主観的な「満足度」や「気分の落ち込み」といった心理的要因が、客観的な睡眠データだけでは捉えきれない睡眠の質に大きく影響するためと考えられます。
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具体的な項目では相関が高まる: 表が示すように、「寝付くまでの時間(睡眠潜時)」や「夜中に目が覚めていた時間(中途覚醒時間)」といった、より具体的で定義が明確な項目においては、主観的評価(睡眠日誌)と客観的評価(アクチグラフィ)の間で中程度の比較的高い相関 () が見られます。これは、被験者が自身の体験として認識しやすい事象だからです。
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総睡眠時間の乖離: 一方で、「総睡眠時間」については、相関のばらつきが大きいことが報告されています。特に不眠症を訴える人々は、客観的に測定された睡眠時間よりも、自身の睡眠時間を短く見積もる(過小評価する)傾向があることが知られています(睡眠状態誤認:Sleep State Misperception)。
結論
米国の研究論文に基づくと、睡眠の質に対する主観的評価と客観的評価の相関は限定的です。両者は睡眠の異なる側面を捉えていると言えます。
- 客観的評価は、睡眠の「量」や「構造」(例:何時間眠ったか、いつ起きたか)を正確に示します。
- 主観的評価は、睡眠による「満足度」や「日中の眠気」、「心身の回復感」といった、睡眠の「質」に関する本人の体験を反映します。
したがって、睡眠の問題を包括的に理解し、適切な対策を講じるためには、どちらか一方に偏るのではなく、これら両方の評価を補完的に用いることが極めて重要であると結論付けられます。
参考文献 ¹ Buysse, D. J., Reynolds, C. F., Monk, T. H., Berman, S. R., & Kupfer, D. J. (1989). The Pittsburgh Sleep Quality Index: a new instrument for psychiatric practice and research. Psychiatry research, 28(2), 193-213. ² Grandner, M. A., Kripke, D. F., Yoon, I. Y., & Youngstedt, S. D. (2006). Criterion validity of the Pittsburgh Sleep Quality Index: investigation in a non-clinical sample. Sleep and Biological Rhythms, 4(2), 129-136. ³ Landry, G. J., Best, J. R., & Liu-Ambrose, T. (2015). Measuring sleep quality in older adults: a comparison using subjective and objective methods. Frontiers in aging neuroscience, 7, 166. ⁴ Jackowska, M., Dockray, S., Hendrickx, H., & Steptoe, A. (2016). Psychosocial factors and sleep quality: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Sleep medicine reviews, 29, 11-23. (本表では横断的データ部分を参考にしています)