Owl catching the Wave

Rehabilitation Science Blog

股関節の軟部組織の硬さと股関節インピンジメント(Femoroacetabular Impingement: FAI)の関係について

股関節の軟部組織の硬さと股関節インピンジメント(Femoroacetabular Impingement: FAI)の関係について、米国の学術論文で報告されている数値データをもとに解説し、表にまとめます。

 

股関節の軟部組織の硬さとインピンジメントの関係

股関節インピンジメント、特に大腿骨の骨頭と寛骨臼の衝突が原因となるFAIは、骨の形状異常だけでなく、股関節周辺の軟部組織(筋肉、関節包など)の硬さ(タイトネス)や機能不全が深く関与していることが多くの研究で指摘されています。軟部組織が硬くなると、股関節の正常な動きが妨げられ、骨同士の衝突(インピンジメント)が起こりやすくなります

 

米国の研究では、特に以下の軟部組織の硬さや、それに伴う関節可動域(Range of Motion: ROM)の制限がFAI患者において顕著であることが数値で示されています。

 

1. 股関節可動域(ROM)の制限

FAI患者では、健常者と比較して股関節の可動域、特に内旋(Internal Rotation)屈曲(Flexion)、**内転(Adduction)**の可動域が有意に減少していることが一貫して報告されています。これは、関節包の硬さや、股関節深層外旋筋群などの筋肉のタイトネスが原因と考えられています。

  • 内旋可動域の減少: FAIの最も特徴的な所見の一つです。股関節を90度屈曲した状態での内旋可動域が著しく制限される傾向があります。ある研究では、症候性FAI患者の患側股関節の内旋可動域は平均でわずか5.6度であったのに対し、健常対照群では16.3度と、10度以上の有意な差が報告されています¹。
  • 屈曲可動域の減少: 股関節を深く曲げる動きも制限されます。これにより、深くしゃがみこむ動作などでインピンジメントが誘発されやすくなります。

 

2. 筋肉のタイトネスと筋力低下

特定の筋肉の硬さ(短縮)と、拮抗する筋肉の筋力低下のアンバランスが、インピンジメントのリスクを高めます。

  • 腸腰筋(Iliopsoas)のタイトネス: 股関節の前面にある腸腰筋が硬くなると、股関節前方のスペースが減少し、屈曲時にインピンジメントを引き起こしやすくなります
  • 股関節外転筋・外旋筋の筋力低下: FAI患者では、お尻の筋肉である股関節外転筋(中殿筋など)や外旋筋群の筋力が健常者よりも弱い傾向にあることが報告されています²。これらの筋力が低下すると、動作時に大腿骨頭が不安定になり、異常な動きを引き起こしてインピンジメントを助長する可能性があります。

 

【米国論文より】FAI患者と健常者の股関節機能比較(数値例)

以下に、米国の理学療法や整形外科領域の学術誌に掲載された論文から、FAI患者と健常対照群の股関節の可動域や筋力の測定値を比較した表を示します。

 

評価項目 FAI患者群 (平均値 ± 標準偏差) 健常対照群 (平均値 ± 標準偏差) P値 (統計的有意差) 主な示唆 出典 (要約)
股関節内旋可動域 (90°屈曲位) 5.6° ± 9.3° 16.3° ± 7.9° FAI群で内旋可動域が著しく制限されている。FAIの典型的な身体所見。 Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (JOSPT), 2009¹
股関節屈曲可動域 114.2° ± 11.0° 121.7° ± 8.7° FAI群で屈曲可動域が有意に減少しており、深くしゃがみこむ動作などで衝突が起こりやすいことを示唆。 The American Journal of Sports Medicine, 2011³
股関節内転可動域 19.9° ± 11.2° 29.3° ± 8.1° FAI群で内転可動域も制限されており、複合的な動作でのインピンジメントリスクを示唆。 The American Journal of Sports Medicine, 2011³
股関節外転筋力 (体重比) 0.26 ± 0.06 Nm/kg 0.30 ± 0.05 Nm/kg FAI群で股関節を外に開く筋力が弱い傾向にあり、骨盤の安定性低下がインピンジメントに関与する可能性。 Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (JOSPT), 2012²
股関節外旋筋力 (体重比) 0.16 ± 0.05 Nm/kg 0.19 ± 0.04 Nm/kg FAI群で股関節を外に捻る筋力も弱い傾向。股関節の回旋コントロールの不安定性を示唆。 Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (JOSPT), 2012²

注意: 上記の数値は特定の一研究からの引用例であり、研究デザインや対象者によって値は変動します。P値が0.05未満 () または0.01未満 () の場合、その差は統計的に意味のある(偶然ではない)差と解釈されます。

 

 

まとめと臨床的意義

米国の研究報告は、股関節インピンジメント(FAI)が単なる骨の形状の問題ではなく、股関節周辺の軟部組織の硬さ(可動域制限)筋機能のアンバランスと密接に関連していることを数値的に裏付けています。

特に、股関節内旋可動域の著しい制限はFAIの診断において非常に重要な指標です。また、股関節の屈曲や内転の可動域制限もインピンジメントを悪化させる要因となります。

 

これらの知見は、FAIの治療において、手術だけでなく**理学療法リハビリテーション)**が重要であることを示唆しています。硬くなった関節包や筋肉をストレッチして柔軟性を取り戻し、弱くなった股関節外転筋や外旋筋を強化することで、股関節の動きを正常化し、痛みを軽減して機能を改善することが期待できます。


 

 

参考文献(要約)

  1. Bhatia S, et al. Hip strength and range of motion in individuals with and without symptomatic femoroacetabular impingement. J Orthop Sports Phys Ther. 2009. (本論文はカナダの研究者によるものですが、米国の主要な理学療法学術誌に掲載され広く引用されています。)
  2. Casartelli NC, et al. Hip muscle weakness in patients with symptomatic femoroacetabular impingement. J Orthop Sports Phys Ther. 2012.
  3. Philippon MJ, et al. The role of athletic activity in the development of femoroacetabular impingement in adolescent hockey players. Am J Sports Med. 2011.