殿筋(TFL)の機能低下時に外側広筋が代償的に過剰に働く

  • 研究は、殿筋(TFL)の機能低下時に外側広筋(gluteus medius)が代償的に過剰に働く可能性を示唆しています。
  • TFLは歩行中の体重バランスに寄与し、gluteus mediusは初期の歩行サイクルで股関節を安定化します。
  • Hochらの2024年の研究では、TFLの寄与力が約33N、gluteus mediusと最小筋の合計が137Nであることが示されました。

 

背景と役割
TFLとgluteus mediusはどちらも股関節の安定化と外転に重要な役割を果たします。TFLが弱まると、gluteus mediusがその機能を補う必要があると考えられます。これは、Hochらの研究からTFLの力の寄与が比較的小さい(33N)一方で、gluteus mediusの寄与が大きい(137N)ことが示唆されています
代償メカニズム
TFLの機能が低下した場合、gluteus mediusはより多くの力を発揮して股関節の安定と外転を維持しようとします。これは、TFLの33Nの寄与をgluteus mediusがカバーする必要があることを意味します。Bresselらの研究(2019年)では、特定のエクササイズでgluteus mediusの活性化を最大化しTFLの負担を減らすことが可能であることが示されており、TFLが弱い場合にgluteus mediusを強化することが有効である可能性があります。
意外な発見
興味深いことに、Hochらの研究では大臀筋(gluteus maximus)も外転力に寄与(123N)することが示され、これは通常の理解とは異なる点です。これは、TFLの弱体化に対する代償メカニズムが単にgluteus mediusだけではなく他の筋肉にも及ぶ可能性を示唆します。

調査ノート
殿筋(tensor fasciae latae, TFL)の機能低下が生じると、外側広筋(gluteus medius)が代償的に過剰に働くことが研究により示唆されています。この現象を詳細に理解するため、関連する米国論文から数値データを基にまとめます。
機能的解剖学と役割
Gottschalkら(1989年)の研究では、TFLは歩行中の体重と非体重支持脚のバランスを取る主要な役割を果たすとされています。一方、gluteus mediusは歩行サイクルの初期段階で股関節の安定化を担当し、特に骨盤の回転を初期化することが重要であるとされています(The functional anatomy of tensor fasciae latae and gluteus medius and minimus)。これにより、両筋は股関節の安定化と外転に寄与するが、異なるフェーズで主要な役割を果たすことが明らかです。
数値データに基づく寄与力
Hochら(2024年)の研究では、実験的に各筋肉の機能を阻害(神経ブロック)し、股関節外転力への寄与を測定しました。結果は以下の通りです:
条件
外転力 (N)
全ての筋肉正常
220
TFL阻害
187
Gluteus medius/minimus阻害
83
Gluteus maximus阻害
97
このデータから、TFLの寄与力は220 - 187 = 33N、gluteus mediusと最小筋の合計寄与力は220 - 83 = 137Nであると推定されます。また、gluteus maximusの寄与力は220 - 97 = 123Nと計算されます。これは、gluteus mediusがTFLよりも大幅に大きな外転力(137N対33N)を担っていることを示しています(Tensor Fasciae Latae and Gluteus Maximus Muscles: Do They Contribute to Hip Abduction?)。
代償メカニズムの推定
TFLの機能が低下した場合、gluteus mediusはTFLの33Nの寄与を補う必要があると推測されます。これは、gluteus mediusがより多くの力を発揮し、股関節の安定と外転を維持しようとすることを意味します。Bresselら(2019年)の研究では、13種類の治療エクササイズを行い、gluteus mediusとTFLの電位図(EMG)活性を比較しました。この研究では、特定のエクササイズ(例:エラスティック抵抗を使用しないもの)でgluteus mediusの活性を最大化しTFLの負担を最小化することが可能であることが示されました(Electromyographic Analysis of Gluteus Maximus, Gluteus Medius, and Tensor Fascia Latae During Therapeutic Exercises With and Without Elastic Resistance)。これは、TFLが弱い場合にgluteus mediusを強化するエクササイズが有効である可能性を示唆します。
臨床的意義と追加の観点
TFLの機能低下は、歩行や単脚支持時の股関節の安定性を損なう可能性があります。gluteus mediusが代償的に過剰に働くことで、過労や疲労が引き起こされるリスクがあります。特に、Hochらの研究ではgluteus maximusも外転力に寄与(123N)することが示され、これは通常の大臀筋の役割(主に伸展)とは異なる興味深い発見です。この点は、TFLの弱体化に対する代償メカニズムがgluteus mediusだけでなく他の筋肉にも及ぶ可能性を示唆します。
まとめ
以上の研究から、TFLの機能低下時にgluteus mediusが代償的に過剰に働くことは理にかなっており、数値データ(TFLの33N対gluteus mediusの137Nの寄与力)もその可能性を支持します。エクササイズによるアプローチでgluteus mediusの活性を高めることで、TFLの弱体化を補うことが期待されます。

主要引用