非麻痺側筋力トレーニングと麻痺側過緊張の関係に関するエビデンス

## 非麻痺側筋力トレーニングと麻痺側過緊張の関係に関するエビデンス

 

### **背景**

脳卒中患者におけるリハビリテーションでは、麻痺側の筋力低下や運動機能の改善が重要な課題です。一方で、非麻痺側の筋力トレーニングが麻痺側の筋力や機能に影響を与える「クロスエデュケーション」の概念が注目されています。このアプローチは、非麻痺側のトレーニングが麻痺側の筋力向上や神経可塑性を促進する可能性を示唆しています[1][5]。

 

### **非麻痺側トレーニングと麻痺側過緊張の関係**

過去には、筋力トレーニングが麻痺側の過緊張(スパスティシティ)を悪化させる可能性が懸念されていました。しかし、近年の研究では、適切なトレーニングが過緊張を引き起こさないことが示されています。

 

1. **スパスティシティへの影響**:

   - SharpとBrouwerの研究では、脳卒中患者が集中的な筋力トレーニングを行っても、スパスティシティが増加しないことが確認されています。この研究では、脚の振り子試験や筋電図(EMG)を用いてスパスティシティを評価しましたが、トレーニング後に過緊張の増加は見られませんでした[1]。

   - 別の研究では、抵抗運動がスパスティシティを改善する可能性が示唆されており、筋力、歩行、バランスの向上も報告されています[3]。

 

2. **クロスエデュケーションのメカニズム**:

   - 非麻痺側の筋力トレーニングは、脳梁や皮質間の神経ネットワークを活性化し、麻痺側の運動野にも刺激を与えることで、麻痺側の筋力や機能を間接的に改善します[5]。

   - 高強度の非麻痺側トレーニングにより、麻痺側の筋力が35%向上したという研究結果もあり、これは神経可塑性の促進によるものと考えられています[5]。

 

3. **安全性と効果**:

   - 非麻痺側のトレーニングは、麻痺側の筋力向上に寄与する一方で、過緊張を引き起こさない安全な方法として評価されています。特に、等尺性収縮や反復的な動作練習が効果的であるとされています[1][5]。

 

### **臨床応用のポイント**

非麻痺側の筋力トレーニングを麻痺側の機能改善に活用する際の具体的な戦略は以下の通りです。

 

- **等尺性収縮運動**: 非麻痺側での等尺性収縮運動(例: 握力トレーニング)は、麻痺側の筋収縮パターンにも好影響を与えます[5]。

- **両側トレーニング**: 両手や両足を同時に使う運動は、脳の両側運動野を活性化し、麻痺側の運動機能改善を促進します[5]。

- **高強度インターバルトレーニング**: 非麻痺側に高強度のトレーニングを取り入れることで、神経の適応力を最大限に活用し、麻痺側の神経伝達効率を向上させます[5]。

 

### **結論**

非麻痺側の筋力トレーニングは、麻痺側の筋力や機能を改善する有効なアプローチであり、適切に実施すれば麻痺側の過緊張を引き起こさないことが示されています。クロスエデュケーションの概念を活用したリハビリテーションは、脳卒中患者の回復を促進する重要な手法として期待されています。

[1] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3524263/

[2] https://cir.nii.ac.jp/crid/1520009409941220736

[3] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10813883/

[4] https://www.jspt.or.jp/eibun/exercise/

[5] https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003999322016136

[6] https://www.stroke-lab.com/speciality/16653

[7] https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/01.str.0000127785.73065.34

[8] https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S187706571600035X

[9] https://www.frontiersin.org/journals/neurology/articles/10.3389/fneur.2015.00119/full

[10] https://www.apunts.org/en-effects-resistance-exercise-in-patients-articulo-S2666506921000122

[11] https://trialsjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13063-019-3261-3

[12] https://journals.sagepub.com/doi/10.3233/PPR-170104?icid=int.sj-full-text.citing-articles.178